謹慎処分
ひとまず僕は国王である父上に、昨晩の夢で見たことを話すことにした。
「どう説明すれば良いのか分かりませんが、昨日の夜に不思議な夢を見たんです。」
巨大なバケモノがこの国を埋め尽くすほどに現われて民を殺して国中を破壊していく夢だった。
それだけであればただの悪夢で終ったんだけどね。
「神のお告げと共に一人の女性が現われて、一振りの剣を僕に手渡してから巨大なバケモノ相手と戦う夢を見たのです。」
夜中に目が覚めてから気分を変えようと窓の外の景色を眺めていたら、夢で見たものと同じ光を北の空に見えたんだ。
ただの偶然か、見間違いかもしれない。
だけどどうしても気になることで光を見た辺りへ調べに行こうと思っていた。
「原因を調べるためにしばらく城を留守にすることになるのですが、どうかお許しを頂けないでしょうか。」
「ふん!馬鹿馬鹿しい。」
父上の返事よりも先に兄上が僕の言葉をさえぎってくる。
「所詮、夢は夢だ。そんなくだらないことのために城を空けるなど許されるわけがないだろう?」
(………。)
「ただでさえお前は無断で城を飛び出し好き勝手しているというのに、仮にも王族にあるべきものが、そのような理由で城を出ることが許されるなどと本気で思っているのか?」
「そ、それは、そうなのですが…。」
「先日も剣術の修行を放棄してまで城下に出て遊びまわっていたらしいではないか!?」
「それは…っ!」
「黙れ!なにが神のお告げだ!?そのようなたわごとを語る暇があるならば少しは王族として恥ずかしくない作法を覚えることだな!」
(………。)
兄上の指摘に何も言い返せなかった。
言われていること自体は間違っていないし、こうなることは最初から分かっていたからだ。
だからだろうか。
僕達の言い争いを見かねた父上が間に入ってくれた。
「仁よ…そこまでにしておくがよい。色々と言いたいことがあるであろうが、少しは涼の言い分にも耳を傾けてはどうだ?」
「いえ、いかなる理由があろうとも王族が街中を遊びまわるなど名誉にかかわる問題です。たとえそれが人助けであろうともです。」
「むう…。」
父上は兄上の言葉にうなるしかなかったようだ。
(…やっぱり無理だったのか。)
父上が悪いわけじゃない。
もちろん兄上も間違っていない。
これはそもそも僕のわがままが原因なんだ。
「申し訳ありません、父上。兄上に何を言われようとも、全ては自分の行いによる不始末の責任です。どのような言葉も受け入れるつもりです。」
「ほう。素直なことだな。ならば今後しばらくの間はお前の外出は全て禁じる!良いな?」
「あ、兄上!?」
「もしもお前が本当に反省しているのならば素直に従え!だがもしも従わない場合はお前を拘留する。」
(…なっ!?)
「言ったはずだ。これは王族の名誉にかかわる問題だとな。」
(………。)
反論すれば言い争いにしかならない。
それが分かっているから何も言えなかった。
そのせいで口を閉ざしてしまったんだけど。
父上は再び仲裁してくれようとしていた。
「仁よ。いくらなんでもそれはやりすぎではないか?王族の名誉というが、涼の評判は決して悪くはない。いや、むしろ良いとさえ言える。外出くらい許してやろうではないか?」
「いえ、父上は涼に対して甘すぎます。王子としての責務をまっとうせず、大した意味もなく城の外へ出ているのですから、少しは王子としての責任を自覚させるべきです。」
「むぅ…。」
あくまでも正論を繰り返す兄上を説得するのは無理だと感じたのか、
父上は小さくため息を吐いている。
「涼よ。こうなってしまっては仕方あるまい。仁の気が治まるまでおとなしくしてくれるか?」
ええ、そうですね。
「わかりました。兄上の指示に従います。」
「当然だ。忘れるなよ?涼。責任の放棄は王子としての責任の放棄とみなすからな。」
一方的に宣言してから、兄上は謁見の間を出て行ってしまう。
「…すまぬな、涼。お前をかばってやれなんだ。」
「いえ、いいのです。しばらくの間は自室でおとなしくしています。」
「うむ。そうしてくれ。わしはお前を失いたくはない。」
(…ありがとうございます。)
父上に頭を下げてから謁見の間を出ようとすると父上の嘆き声が聞こえてきた。
「ふぅ。兄弟とは言え難しいものだな。」
(…そうですね。)
もう少し仲良くなれればいいんだけど。
僕にはどうすれば良いのかが分からないんだ。
だから父上に何も言えなかったんだけど。
父上の隣に座る母上も今回の言い争いに対して何も語らなかった。
ただこの場に居合わせて、僕を睨み付けていたんだ。




