御神涼
【半年前】
世界に五つある大陸の一つとして知られるアステカ大陸。
この大陸は大まかに北部と中部と南部の3つの地域に分類されているんだけど。
現在、僕がいるのは大陸の南部地域になる。
全体的に山岳地帯が多くて交通が不便ではあるものの、
それが天然の要塞となって各国の防衛力を高めているのも事実だろうね。
そして大陸南部には『アルバニア』『ミッドガルム』『アストリア』『イーファ』『カーウェン』『セルビナ』『ファンテリナ』の7つの国があるんだけど。
その中でも最大の領土を持つのがアルバニア王国になる。
この国は優秀な陰陽師を数多く輩出していることで陰陽師の聖地とも呼ばれていて、大陸有数の歴史を持つ大国でもあるんだ。
そのアルバニア王国の王都の中心に位置する巨大な王城の中に僕はいる。
名前は御神涼。
年齢は12歳。
この国の第2王子になる。
(…はぁ。相変わらず母上は僕を嫌ったままか。)
「兄上と同じように僕を国王の座を狙う敵と認識しているみたいだけど…。」
大きなため息を吐きながら窓の外に視線を向けてみる。
この行動自体に意味はないけれど、
俯いてばかりいると余計に疲れてしまいそうなんだ。
「血のつながりが無いというだけで、こんなにも苦しいものなのだろうか…。」
出来ることなら知らずにいたい事実だったけれど、
僕は王妃の季更様とは血の繋がりがない。
父親こそ武尊国王であるものの、
母は季更様ではなくて妾として城に招かれた小春母さんの子として生まれたんだ。
まあ、妾というと語弊があるかもしれないけどね。
どの国においても国王の傍には少なからず側妻がいるものじゃないかな?
王妃との間に子供が生まれなかったり、
女の子ばかりで肝心の後継ぎとなる王子が生まれなかった場合を考慮して、
何人かの女性に子供を産ませるのは王の役目でもあるからだ。
父上から聞いた話だと、本来正妻に迎えたかった女性は小春母さんだったみたいなんだけど。
母さんはただの侍女だったから身分の違いが二人の結婚を許さなかったようで最終的には側妻という形で収まったらしい。
だから王妃になった季更様は王族同士がとりなした政略結婚ということになるのかな。
それでも季更様としてはこの国に嫁いだこと自体に不満はなかったらしい。
不満どころか、希望さえ抱いてこの国へ来たと言っていたのを聞いたことがある。
実際、王妃としての待遇は悪くはなかっただろうし幸福だったんじゃないかな。
まあ、父上は小春母さんを強く愛していたけれど。
それと同じくらい正妻になった季更様にも強く愛情を注いでいたらしいからね。
だから季更様には不満なんてなかったらしいんだ。
…あの日が来るまでは。
そう。
僕が生まれるまでは、ね。
長男を出産した時の季更様は最大の幸福にいたらしい。
自分の息子がいずれ国王になるわけだからね。
喜ばないはずがないし、
僕から見ても当然の反応だと思う。
だけど、跡継ぎが生まれた半年後に小春母さんが僕を出産したんだ。
その瞬間に、季更様の中ではある種の恐怖が生まれてしまったんだろうね。
『国王である父上は小春母さんを愛しているから。』
だから季更様は自分の子ではなくて、側妻の子である僕に王位を奪われるのではないかと恐れたんじゃないかな。
もちろん季更様の子も同じように愛してくれていたはずだけど。
それでも僕の存在を素直に喜べなかったようだった。
ただ、その恐怖は時の流れとともに薄れていったようで、あることをきっかけに一旦は消え去ったらしい。
そのきっかけは小春母さんの病死になる。
僕が生まれてから2年も経たずに小春母さんは病で倒れてしまったんだ。
そのおかげで季更様は父上を独占出来るようになり、
僕や小春母さんの存在を気にしなくなっていたようだね。
それに小春母さんの死とほぼ同時に、季更様は二人目の子供を授かったのも理由の一つだったと思う。
小春母さんの死から数ヵ月後に、
季更様は第一王女となる唯を出産した。
それから現在にいたるまで新たな子供は生まれていない。
季更様の子である第一王子の仁と妹の唯。
そして小春母さんの子である第二王子の僕の3人が跡継ぎ候補として育てられたんだ。
…まあ、気にされなくなったと言っても関係が良くなったわけでもないんだけどね。
父上は小春母さんの子である僕も愛してくれていた。
小春母さんを失った父上は、僕まで失うことを何よりも恐れていたようだ。
だけどそれが季更様にとっては面白くなかったのかもしれない。
真に守るべきは長男であり、僕はその次だと考えているようだからね。
そのせいで直接の子である兄上も季更様の考えを受け継いでしまっている。
だから季更様と兄上は二人とも僕を嫌っているんだ。
それが分かっているから僕は二人の傲慢さや一方的な憎しみから逃れるために出来る限り城の外に出るようにしていた。
城内にいると嫌でも二人と向き合わなければいけないからね。
父上は僕を守ってくれるけれど。
国王としての責務もあるから僕のことだけを考えているわけにはいかないし、
僕を庇えば庇うほど二人の嫉妬は大きくなってしまうんだ。
そうして上手くいかない家族関係の中で放置された僕は城内においてほぼ孤立してしまっている。
まあ、相手は時期国王だから仕方がないけどね。
わざわざ敵対しようと思う人なんていないだろうし、
基本的に城に仕える者達は表面上は王妃や兄上の味方になってしまうんだ。
それなのに。
たった一人だけ権力に負けずに僕に味方してくれる人物がいた。