時雨と香澄
「朝倉っ!くだらない考えは捨てて俺に手を貸せ!」
「あら?珍しいわね。私を心配してくれるの?」
「お前とは気が合わないが、見殺しにするほど嫌いじゃないんでな。」
「ふふっ。私も嫌いじゃないわよ。私の大事な甥っ子を育ててくれる教師だもの。」
(………。)
「お前は…そればかりだな。」
「私のたった一人の家族だもの。当然でしょう?」
(…か、香澄様。)
「まあ、そういうものかもしれないがな。」
「ふふっ。それで、私はどうすれば良いのかしら?」
「何でもいい。とにかくそいつを足止めしろ。その間に俺がでかいのをぶち込んでやる。」
「あらあら、随分と適当な作戦ね。」
「他に方法があるのなら言ってみろ。」
「いいえ。ここは本職に従っておくわ。」
「…お前が言うか。」
「ええ、私は引退した身ですから。」
「だったらそのまま大人しく引きこもってろ。そうすればこんなことに巻き込まれずに済むんだからな。」
「あら?その引きこもりにお守りを押し付けたのは貴方でしょう?」
「…ちっ、そうだったな。」
「それで、何か言うことは?」
「…すまない。」
「よろしい。それでは協力してあげますよ。」
「頼む。」
「ええ。任せなさい。」
どういうことだろうか?
二人の会話の流れが良く分からないけれど。
もしかして香澄様も戦えるのだろうか?
「実践は数年ぶりですが、何とかなるでしょう。」
まっすぐに鬼の動きを見定める香澄様が複雑な印を組んでいく。
(…は、速いっ!?)
不動さん以上の速度だ。
印の組み方が複雑すぎて僕には理解できないけれど。
香澄様は何らかの術式を展開しようとしているようだった。
「法の名の下に!悪しき者に、死の捌きを!」
僕の知らない術が発動した瞬間に、光の輪が鬼の体を包み込む。
「ぐるるるるぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
光に囚われた鬼が初めて動きを止めた。
あの術にどういった効力があるのかは分からないけれど
香澄様の術は鬼を封じ込めるのに成功したようだ。
「時雨!この術は長時間は持たないわよ。」
「ああ、分かってる。30秒持てば十分だ!」
香澄様が必死に鬼の動きを封じている。
その間に不動さんも複雑な印を組み続けていく。
「あと3つ!」
30秒をほぼ使い切るほどの時間をかけて組まれた術式。
香澄様の術が破壊されるのと同時に不動さんの術が完成したようだ。
「急々如律令!!閻魔煉獄っ!!!」
先程よりも強力な炎。
村を丸ごと焼き尽くせるほどの炎を放つ不動さんの攻撃によって、ついに鬼が苦しみだした。
「ぐるるるぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
さすがの鬼もこれほどの炎には耐えられないのだろうか?
炎の内部でのたうち回る姿が見えるんだけど。
何故か嫌な予感が膨らんでいく。
(…これは、何だ?)
どうしてこうも恐怖が抑えられないのだろうか?
(…まだ、何かがあるような。)
これで終わりではなくて、
ここから何かが始まるような。
そんな言いしれない予感を感じていると。
「ぐるるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!」
突如として鬼が咆哮を上げながら立ち上がったんだ。




