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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
プロローグ
26/499

だからこその質問

(…はぁぁぁぁぁ。)



今の心境を一言で表すなら『疲れた』だろうか。



村の南に移動してからすぐに本格的な修練が始まったんだけど。


不動さんの指導は僕が思っている以上に厳しかった。



ある程度は覚悟していたものの。


僅か数時間の間に体力的にも精神的にも限界ギリギリまで追い込まれる訓練ばかりだったんだ。



(…いくら人通りがないと言っても力尽きるまで陰陽術を放ち続けるなんて思わなかったよ。)



序盤でさえそんな調子で、中盤からは陰陽術の対処法と言う名の不動さんの攻撃からひたすら逃げ回ると言う荒行が展開されていた。


そうして最終的には陰陽術の習得を目的としてひさびさに鬼こっごを行うことになったんだ。



それも初日と違って今は使える術が増えているから行動の幅が増えた分だけ対処にも頭を悩ませることになってしまっている。



まあ、何だかんだで兄上も強くなってるからね。


一瞬でも気を抜けばあっさりと背後をとられてしまうんだ。



だからと言って今回は勝ち点が同じになるようにという配慮はなかった。


…と言うよりも、そもそも幻夜さんと八雲は参加してないからね。



幻夜さんは八雲と、僕は兄上との一騎打ちだったんだ。



(…さすがに今回は引き分けに持ち込めなかったな。)



あと1点が足りなくて兄上に勝てなかった。


それが素直に悔しいと思う気持ちはあるけれど。



下手に恨まれずに済むからこれで良かったのかもしれない。



それでももっともっと頑張りたいとは思うけどね。



そうでなければ僕に協力してくれている八雲にも申し訳ないし、

せっかく指導してくれている不動さんにも申し訳ないからだ。



それに、あまり負けてばかりいると香澄様にも怒られそうだからね。



今まで以上に迷惑をかけている分、

出来る限り怪我をしないように頑張ろうと思ってる。



とりあえずはまあ、これからかな。



今日の結果は素直に受け止めることにして明日は今日以上に努力をしよう。


そうしていつかは一流の陰陽師になりたいと考えていると、

二組の試合を眺めていた不動さんがゆっくりと近づいてきた。



「今日の修練は以上だ。そろそろ日が暮れる時間だからな。一旦、ワタ村に戻るぞ。」


「あ、はい。」



(…ふぅ。)



やっと終わったようだ。


思い返してみれば今日ほど苦しい一日は初めてだったんじゃないかな。



だからこそ強くなれるのかもしれないけど僕も兄上も疲労困憊でフラフラだ。



それなのに幻夜さんと八雲は平気そうな顔をしている。



この違いが今の僕達の実力の差なのかな?


あまり格の違いに落ち込んでしまうけれど、いつかは追い付けるだろうか?



八雲や幻夜さんに。


そして、不動さんに。


いつの日にか肩を並べられる日が来るだろうか?



そうなりたいとは思う。


自信をもって陰陽師を名乗れるようになりたいと思うんだ。



そんなふうに考えながら立ち上がってみると。



(…ん?…あれ?)



ここから北側にあるワタ村の方角から黒煙があがっているのが見えたんだ。



(…煙?)



何の煙なのだろうか?



「あ、あの…。」



煙に気付いたことで不動さんに話しかけようとしてみると。



「何だあれ?」


「…嫌な予感がするな。」



八雲と幻夜さんも異変に気付いた様子だった。



「何かが燃えているのか?」



兄上も戸惑っているようだけど。



「…まずいな。」



不動さんは何かに気付いた様子だった。



「あの…。どうかしたんですか?」


「…ああ。」



改めて問いかけてみたことで、

不動さんは普段見せないような真剣な表情で頷いてくれた。



「おそらくワタ村が襲撃を受けているのだろう。」



(…え?)



襲撃?



「朝倉はまだ村に戻っていないが、このままだと戦いに巻き込まれる可能性がある。」



(…か、香澄様が!?)



それはダメだ。


香澄様を危険な目に合わせるわけにはいかない。


それに香澄様には唯が同行してるはずだ。


このままだと唯まで戦闘に巻き込まれることになってしまう。



「い、急いで助けに行かないとっ!」


「…分かっている。だが…っ。」



不動さんは僕と兄上に視線を向けてからもう一度ワタ村に振り返った。



「おそらく俺の考えは否定されるだろうな…。」



(…え?)



どういう意味だろうか?



「この状況での最善策は…。」



必死に考えをまとめる不動さんは、

苦々しい表情を見せながら改めて僕達に振り返った。



「一応、確認しておこうか。」



村が襲撃を受けている状況なのにすぐに救助に向かおうとしない不動さんは、

まっすぐに僕と兄上を見つめながら何かを問いかけようとしている。



「現在、ワタ村が襲撃を受けているのは間違いない…が、ここで重要なのは優先順位だ。」



優先順位?


どういうことだろうか?



「俺の役目は王子の教育兼護衛だ。だからこそ二人の生存を優先するのであればワタ村を見捨てるという選択も考えられる。」



(………。)



「………。」



僕も兄上も何も言えなかったけれど、

不動さんがそんな方法を選ぶとは思えなかった。



「ただ、今回は朝倉もそうだが王女の護衛も引き受けてしまっているからな。王子を逃がすだけでは意味がない。」



…ですよね。



僕としても唯を置いて逃げるなんて考えられない。


もちろん香澄様を置いていくなんて論外だ。



「そこで、だ。幻夜と八雲に王子の護衛を任せて俺が単独で朝倉と王女の救出に向かうのが最善策だと思うのだが…。」



(………。)



それは、たぶん無理です。



不動さんも分かっているはずだ。


だからこそ悩んでいるはず。



「おそらく朝倉は逃亡を良しとはしないだろう。村を見捨てて逃げるくらいならば自らが囮になると言い出すに決まっている。」



…ですよね。



僕もそう思うんだ。


だからこそ不動さんが考える最善策は実行できないことになる。



「…とは言え、俺も朝倉と王女の二人を護衛しながら村を守りきる自信はない。おそらく戦闘だけで手一杯になるだろう。」



つまり、香澄様と唯を護衛できる戦力が足りないということだ。



「村を見捨てれば俺達は助かる。だが村を守るためには俺一人では手が足りない。」



だからこその質問なんだ。



村を見捨てて逃げるか?


それとも救援に向かうか?



僕達が協力すれば香澄様と唯を守るくらいはできるはず。


その間に不動さんが敵を一掃すれば全てが解決する。



「どうする?逃げるか?それとも戦うか?」



命を掛けた選択肢。


だけど迷う理由はない。



「行きます!香澄様が戦うのであれば逃げるわけにはいきません。」


「俺もだ。唯を置いて逃げるつもりはない。」


「…そうか。」



僕と兄上が決断したことで、不動さんは幻夜さんと八雲にも視線を向けた。



「お前達で守りきれるか?」


「何とかして見せます。」


「まあ、2人が4人でもたいして変わらねえだろ。」



僕と兄上だけではなくて唯と香澄様も護衛しなければいけない状況。


それでも二人は迷うことなく引き受けてくれていた。



「後方はお任せください。」


「親父は戦闘に集中してろ。」


「ふっ。頼りにしているぞ。」



幻夜さんと八雲も参戦を決めたことで、

不動さんも覚悟を決めた様子だった。



「行くぞ!!まずは朝倉と王女を救出する!」


「はい!」



時間的に考えてすでに二人も村に向かって移動しているはずだ。



…いや。



むしろ村の異変に気付いて僕達よりも先に行動している可能性が高い。



「急ぐぞ!」


「「「「はい!!」」」」



香澄様と唯を救出するために。


そしてワタ村を守り抜くために。



僕達は大急ぎで行動することになった。


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