二人の力関係
(…うーん。)
これで良かったのかな?
東門では色々とあったけれど。
香澄様は全く気にしていないようだ。
それに不動さんもすでに諦めているのか、
特に不満を口に出す様子は見られない。
そうして唯と香澄様と同行することになった僕達は、ひとまず王都の東にあるワタ村に到着した。
「ようやく着いたわね~。」
「穏やかで静かなところですね。」
香澄様は慣れた雰囲気だけど、唯は初めてくる場所に興奮しているようだね。
「見たことのない物が一杯ですっ。」
(…ははっ。そうだね。)
王都には無いと言い切れるほど全く違うわけではないけれど。
やっぱり農業や畜産業は王都ではあまり見られないからね。
広大な畑や数多くの牛や馬を見れるのは田舎ならではじゃないかな。
「えっと、朝倉様がこの村に来たのは薬草の採取のためですよね?」
「ええ、そうよ。この村の北部では解熱剤の原料が取れるの。それと少し東に向かったところでも鎮痛剤の材料になる花が採取できるのよ。普段ならこの村から定期的に送られてくる納品が来るのを待つんだけど、最近は『誰かさん達』が良く怪我をするから薬の減りが早くて困ってるのよね~。」
(………。)
香澄様が誰を示しているのかは聞くまでもなかった。
そうか。
そういうことなのか。
不動さんが良い顔をしなかった本当の理由はこっちだったんだ。
僕と兄上の修行が始まったことで陰陽師として日々成長しているわけだけど。
当然、日々の努力に比例して怪我の数も増えてきている。
もちろん不動さんが見てくれているから大怪我をすることはないんだけど。
陰陽術を使う過程でどうしても怪我や火傷を負うことはあるんだ。
時には失敗することだってあるし、
初日のような訓練だってあるわけだからね。
怪我をしない日のほうが珍しいかもしれない。
そういうこともあって傷薬の消費量は飛躍的に増えているはずだった。
「使うのは簡単だけど、作るのは大変なのよ?」
「………。」
不動さんは何も言い返さないけれど。
香澄様の目は本気で非難しているように見える。
「王族が扱う薬品は全て私が作るように言われているのは知ってるわよね?そのうえで唯様の教育まで引き受けることになったのは誰のせいかしら?」
「………。」
香澄様の追及は止まらない。
それでも反論しない不動さんの我慢強さは尊敬するけれど。
この場合『言い返さない』のか『言い返せない』のかによって二人の力関係が変わってくるような気がしてくる。
あまり追及しないほうが良いのかな?
どちらが優位なのかは確かめる必要もないからだ。
「このうえ私の大事な甥っ子まで泣かせるようなことがあれば本気で呪い殺すわよ?」
にこやかに宣言する香澄様からは不穏な気配が漂っている。
だからだろうか?
「………。」
不動さんは視線を逸らして香澄様を見ないようにしていた。




