決着と裏事情
兄上の動きを封じて背後をとった。
その結果として僕と兄上はひとまず引き分けになったんだ。
もちろん勝負はまだ終わったわけじゃないけどね。
残り時間はまだ5分ほどあるはず。
その間にどれだけ頑張れるかによって訓練の勝敗が決まることになる。
「さあ!まだまだあきらめるな!!」
再び響き渡る不動さんの声をきっかけとして僕達は3度目の攻防へと移る。
そうして残り時間一杯まで戦い続けたわけなんだけど。
結果から言えば2対2で決着が着くことはなかった。
(…ふぅ。)
結構、頑張ったつもりなんだけどね。
それでも同点に持ち込むのが精一杯だったんだ。
「ごめんね、八雲。」
「はははっ。まあまあ、そんなに落ち込むな。」
引き分けという結果が満足できなくて謝ってみたんだけど。
八雲は笑って励ましてくれていた。
「…それに、な。」
兄上や周囲の目を気にするかのような仕草を見せたあとで僕の耳元でささやく。
「そもそも今回の訓練は引き分けにするように言われてたんだ。」
(…え?)
「それに俺と兄貴が本気を出せばこんなもんじゃすまねえしな。」
(…あ、う、うん。)
それはそうだよね。
幻夜さんもそうだけど、
八雲も支援に徹していてほとんど動いていないんだ。
だから本気じゃなかったのはすぐに理解できた。
「今回は最初から遺恨が残らないように引き分けにするって決まってたんだよ。」
ああ、なるほど。
真剣に戦ったあとで実は本気じゃなかったと言われるのはなかなか辛いものがあるけれど。
八雲が言いたいことは何となく分かる。
要するに僕と兄上のためってことだ。
下手に僕が勝てば兄上の機嫌が悪くなるうえに不動さん達からの扱いが不公平だと言いかねない。
だからと言って兄上が勝てば機嫌は良くなるだろうけど増長して言うことを聞かなくなる可能性がある。
そうなるとどちらにしても僕への風当たりは悪くなるだろうし兄上への対応も難しくなると思うからね。
結果を出さないために引き分けにするという判断は最善だったかもしれない。
不動さんらしいというか、なんていうか。
細かいところまで考えているんだなと感じる瞬間だった。
「まあ、この辺りの裏事情は兄貴も向こうには上手く説明するだろうけどな。とりあえず今日は親父が言っていたように今後のための予習だったってことだ。」
「ああ、うん。分かったよ。」
上手く踊らされていたことに気付いて恥ずかしくなってしまうんだけど。
実際問題として他人の力を借りて勝負に勝っても意味がないからね。
今回は引き分けで良かったんだと思うことにした。
「ありがとう八雲。今日はとても良い勉強になったよ。」
「ははっ。そう言ってもらえると俺達も協力した甲斐があるってもんだな。」
明るく元気に接してくれる八雲はとても良い人だと思う。
兄上と幻夜さんの関係はどんな感じなのか分からないけれど。
ひとまず僕達はこれからも4人で陰陽術を学んでいくことになったんだ。
ざっと調べた感じだと『陰陽術』には二つの形態があるようですね。
『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』の九字を主体とするドーマン派(蘆屋道満)と、
『木・火・土・金・水』の五芒星を主体とするセーマン派(安倍晴明)。
どちらも有名ですが、どちらも陰陽道では後期の流派のようです。
前作では後者の陰陽五行を中心に話を進めていたのですが、
ひとまず今作ではどちらも登場しない予定…です、たぶん。
時代設定的に、それらが登場する前という感じでしょうか。
これから発展していくと思ってもらって良いかもしれません。




