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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
プロローグ
20/499

幻夜の仲裁

「良し!そろそろ時間だな。」



(…うわぁ。)



もうそんな時間なのか。


ついさっき始まったと思ったのに、気が付けばすでに3時間がすぎようとしていた。



「互いに準備は良いか?まあ、まだだったとしても待つつもりはないがな。」



(…ですよね。)



確認とは言えないような確認をしながら笑いだした不動さんは僕達の返事も聞かずに試験を開始しようとしている。



「まずは習うより慣れろだ。実際にやってみたうえでの経験と反省が明日以降の訓練をより価値のあるものにしてくれるだろうからな。」



(…はい。)



「今日は予習だと思って気楽にやればいい。まあ、本音を言えば互いの交流が目的だからな。まずは幻夜と八雲の二人から学べることを学べ。そうして最低限の技術が身についてきたら、今度は俺が直々に教育するつもりだ。…とは言っても、数か月は先になるだろうがな。」



数か月も先か。


実際にどれくらいの期間になるのかは分からないけれど。


ひとまずしばらくの間は幻夜さんと八雲の二人から教わる日々が続くようだった。



「さて。それでは初の実習といこうか。仁王子と涼王子は互いに勝利を目指して善戦するように。」


「了解です。」


「頑張ります!」


「うむ。幻夜と八雲は二人の援護を頼むぞ。」


「お任せください。」


「おう。俺も任せてくれ。」



それぞれに返事をしたところで、

ついに試験が開始されようとしていた。



「それではこれより第1回、交流試合を開始する!」



鬼ごっこと言う名の試験。


初めて行う陰陽師としての試合が始まろうとしているんだ。



「制限時間は10分。その間により多くの点数を稼いだほうの勝ちとする。」



(…え?…と言うことは?)



相手の背中をとった時点で終わりじゃなくて、

制限時間内は試合を継続すると言うことかな?



そのほうが良いかもしれない。


一回限りの勝負よりも、より真剣みが増すからだ。



例え一時的に負けても努力次第で逆転できるかもしれないと思うだけで、もう一度頑張ろうと思えるからね。



上手く立ち回れるかどうかは分からないけれど、出来る限りのことはやってみようと思える。



「今から10秒数えるからな。その間に全員配置につけ。」



(…はいっ!)



八雲と相談して決めた作戦を信じて動き出す。



「1、2、3…。」




八雲と一緒にこの場から離れることにしたんだけど、

もちろん兄上も幻夜さんと共に行動しているようだった。



ただ、僕としては無暗に走り回るつもりはない。



不動さんも言っていたけれど、どう考えても体力的に不利だからね。


だから最初から逃げることは考えていないんだ。


上手く兄上を躱しながら背後に回り込むつもりでいる。



逃げても追いつかれるなら逃げないほうがマシだよね?



余計な体力を使わないように工夫しながら点数を増やす。


それしか勝つ方法はない。



「4、5、6…。」



あっという間に過ぎていく時間。


残り数秒になったところで、僕と八雲は足を止めた。



「良いな?最初は全力で回避だ。」


「ああ、分かってるよ。」



どんな攻撃が来るかは分からないけれど、兄上の背後をとるためには接近するしかない。


そのための方法として、兄上達の攻撃を回避しつつ接近するつもりでいたんだ。



「7、8、9…10!」


「来るぞっ!」


「ああ!」



不動さんの秒読みが終わった瞬間に、兄上と幻夜さんが走り出すのが見えた。



(…やっぱり兄上なら正面から向かってくるだろうね。)



「「急々如律令!!」」



二人が同時に印を組む。



相手が他の人ならどうかは分からないけれど、対戦相手が僕なら兄上は全力で襲い掛かってくるはずだ。



僕から逃げるという考えはないだろうからね。


こうなることは最初から予測できていた。


だからこそ僕は逃げずに迎撃する方針を選ぶことにしたんだ。



(…やるからには本気でやらないと意味がない!)



「急々如律令!!!」



僕も覚えたての印を組んで走り出す。


だけど八雲はまだ動かない。


相手の陰陽術を確認するまでは不用意に動かない手はずになっているからだ。



八雲の担当は相手の妨害だけど僕の役目はそうじゃない。



(…とにかく回避することだ!)



どんな攻撃が来るとしても躱しきること。


そのために神経を集中させて兄上に接近することを考える。



そうして駆け出した直後に幻夜さんの陰陽術が放たれた。



「火炎!!」



僕の接近を阻むかのように放たれた炎が広範囲に広がっていく。



(…どうする!?)



炎に飛び込むべきだろうか?


それとも回避するべきだろうか?


僅かに迷ったけれど。



「そのまま進めっ!!」



背後から八雲の声が聞こえてきたことで走り続けることにした。



略式りゃくしき結界!!」



僕には分からない何かが周囲に影響を及ぼしているのが感じとれる。



(…炎が、消える!?)



これは敵の攻撃を防ぐ術なのだろうか?


今はまだ詳しいことは分からないけれど。


八雲のおかげで炎はどうにかなりそうだ。



(…このままっ!!)



炎を突き抜けて兄上を目指そうとしたんだけれど。


どうやらそんなに簡単にはいかないようだね。



「光弾!!」



炎を突破した直後に兄上が攻撃を仕掛けてきたんだ。



(…うわっ!?これは速すぎるっ!)



威力はどうか分からないけれど。


危険を感じた直後にはすぐ目の前にまで光の弾が迫ってきている。



(…くっ!)



まだ距離があるけれど、

ここで倒れるわけにはいかないんだ。



周天法しゅうてんほう!!」



八雲に教わった陰陽術を使って、一時的に身体能力を向上させる。


ただそれだけのことで目前に迫る光の弾の速度がわずかに遅く感じられた。



(…これなら、どうにかっ。)



ギリギリ回避が間に合って、光の弾を避けることが出来る。



だけど問題は兄上に接近できるかどうかだ。



(…届くかっ!?)



兄上との距離はおよそ30メートル。


この距離を走りきれなければ背後を捕えることは出来ない。



(…あと、少しっ!)



不慣れな感覚に違和感を感じながらも走り続ける。


そうして全ての攻撃を開始したうえで兄上の背後に回り込もうとしたんだけど。



「ふんっ。少々速く走れるようになった程度で俺に勝てるつもりなのか?」



やっぱり距離が遠すぎたんだろうね。


僕が手を伸ばすよりも先に兄上に回避されてしまったんだ。



(…ま、まずいっ!?)



全力で走っていたせいで体勢が変えられない。


何よりも空ぶってしまった手を引き戻す余裕なんてなかった。



「まずは一勝だな。」



(…くっ。)



前のめりになってしまった僕の背中に兄上の手が触れてしまう。



「お前の負けだ、涼。」



(………。)



先制点は兄上に取られてしまった。


そのことが悔しいと思うと同時に不思議に感じることがあった。



間違いなく殴られると思っていたんだ。


兄上のことだから、ここぞとばかりに殴りかかってくると思っていたのに予想外に触れるだけにとどまっていた。



(…さすがに人の目があるからかな?)



不動さんが見ているということもあるけれど。


幻夜さんや八雲も見ている前で僕を殴り飛ばすと今後の関係が気まずくなるかもしれないからね。



そういう理由で兄上も手加減をしてくれたのかと思ったんだけど。


どうやらそういうことではなかったらしい。



「一旦、仕切り直しですね。」



兄上に後方へ下がるように指示を出しながら歩み寄ってきた幻夜さんが倒れてしまった僕に手を差し伸べてくれたんだ。



「立てますか?」


「あ、は、はいっ!」



無様な姿を見せてしまったことを恥ずかしく思いながらも、慌てて立ち上がることにしたんだけど。


その瞬間に幻夜さんがさりげなく耳打ちをしてくれた。



「…訓練中の物理的な攻撃は通用しません。父が監視している間は暴行を受ける心配はありませんので安心してください。」



(…あっ。)



どうやら幻夜さんは僕の疑問に気付いてくれたようだった。



(…そ、そういうことなのか。)



兄上が手加減をしてくれたわけじゃなくて、不動さんのおかげで攻撃が防がれていたらしい。



「…それと、作戦自体は悪くありませんが、やはり時期尚早でしたね。先程に関して言えば何もしなくても八雲の結界のおかげで攻撃を防げていたはずですから。」



(…あ、ぅ。)



どうやら僕の判断は間違っていたようだ。



「す、すみません…。」


「いえいえ。時間はまだありますので、もう一度頑張ってみてください。」



手を差し伸べてくれた幻夜さんは、何事もなかったかのように微笑んでから兄上のもとへ戻って行く。


その後ろ姿を眺めていると。



「…まあ、序盤はこんなもんだろ。」



後方で待機していたはずの八雲も駆けつけてくれたんだ。



「ご、ごめんね。」


「ははっ。気にするな。元々の身体能力に差があるんだからな。周天法が通じないのは予想済みだ。」



(…そ、そうだったのか。)



「だからこそもう一つの術を教えたわけだからな。次は上手く狙えよ?」


「あ、ああ。頑張ってみるよ。」



確かにもう一つの術を使ってさえいれば兄上の背後をとれたはず。



(…少し焦りすぎたかな。)



前に進むことばかりに気をとられていて、兄上の動きが見えていなかったんだ。



「もう一度頑張るよ。」


「おう。援護は任せろ。次も守ってやるからな。」


「ああ!よろしくね。」



次は失敗しない。


今度こそ八雲を信じて前に進むんだ。



「戦いを再開しよう!」



改めて兄上と向き合ったことで、不動さんが叫んだ。



「残り8分だ!戦いに待ったはない!このまま継続しろ!」



催促と叱責。


動きを止めてしまった僕達を急かす不動さんの言葉をきっかけとして、再び訓練が開始された。



「「急々如律令!!」



再び動き出す兄上と幻夜さん。


二人がどんな陰陽術を使ってくるのか分からないけれど、僕も再び走り出すことにする。



(…今度こそ!)



兄上の背後をとってみせるんだ。



「急々如律令!」



再び印を組みながら先行する。


後方で見守ってくれている八雲を信じて、兄上を目指して走り続ける。



周天法しゅうてんほう!!」


火炎かえん!」


風刃ふうじん!」



兄上との距離を詰めるために加速した直後に二人の陰陽術が放たれた。



幻夜さんはさきほどと同じ炎。


兄上は新たに見せる風の術。



ほぼ同時に放たれた二人の陰陽術には相乗効果があるのか、

先程よりも威力と速度が向上しているように感じられる。



これはどうなんだろうか?


八雲に防げる攻撃なんだろうか?



…分からない。



(だけど行くしかないんだ!)



さっきは八雲を信じ切れていなかった。


だから判断を見誤ったわけだけど。


次は失敗しないと誓ったんだ。



(このまま突っ切る!!)



八雲を信じて炎の渦に飛び込もうとしたところで後方からの支援が届く。



「略式結界!!ついでに吹雪だ!」



再び僕の周囲に広がる結界。


そして新たに放たれた吹雪が炎の渦とぶつかり合って、相手の攻撃を相殺していく。



(…す、すごいっ。)



二つの術式を同時に展開したこともそうだけど。


あとから発動したはずの術式が相手の攻撃を完全に食い止めていることに驚いてしまった。



これが八雲の実力なのか?


周囲の状況に戸惑いさえ感じるけれど、今は驚いている場合じゃない。



今回は八雲も協力してくれているんだ。


炎と冷気がぶつかり合ったことで、うっすらと霧がかかっていくのが見える。



(…今ならっ!)



兄上達は僕の姿を見失っているかもしれない。



(今度こそ成功して見せる!)



炎と冷気と霧の様々な悪条件の中を全力で走り抜ける。


そうして陰陽術を突破した僕の視線の先に兄上がいた。



…また、この距離か。



兄上との距離はおよそ30メートル。


さっきはがむしゃらに突撃して失敗したけれど。


今回は冷静になって兄上の動きを見定めるんだ。



「急々如律令。」



残り20メートル。


このまま突撃するだけなら兄上に回避されてしまう。



…だから!



「呪縛!!」



残り10メートルに迫ったところで新たな陰陽術を展開したんだ。



「これでっ!!」


「…なっ!?」



僕の接近に警戒していた兄上だけど、僕の術で動きを封じたことで身動きが取れなくなっている。



「今回は僕の勝ちです!」



僕の手を躱すどころか身動き一つとれない兄上の背後に回り込んで背中に触れた。



その結果として僕と兄上の勝ち点は同じになったんだ。






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