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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
プロローグ
18/499

修行初日

そして翌日。


ようやく不動さんの下での本格的な修行が始まる日が訪れた。



(…ついに、か。)



言われるまま集まったのは王城の裏手になる。


今日は城の兵士達の訓練場を借りて陰陽術を学ぶことになったんだけど。


今ここには僕と兄上と不動さんに幻夜さんと八雲さんの5人しかいない。



唯は香澄様に連れられて別の場所にいるからこの場にいないのは仕方がないとしても、

訓練場に誰もいないというのは何だか少し不思議な感じがしてしまうね。



「さて、これから陰陽術を学んでもらうわけだが、ひとまず今日一日はこの場を貸切ることにした。理由はまああれだ。正規の手順を踏まない特別な教育だからな。不特定多数の部外者に見せるわけにはいかないと思ってくれればいい。」



ああ、なるほど。


周囲に誰もいないのは不動さんの指示のようだ。



まあ、確かに僕と兄上は陰陽師として必要な過程を全て飛ばしているわけだからね。



陰陽師になりたくても慣れなかった人や、すでに陰陽師として活躍している人達からすれば特別扱いなのは間違いないと思う。


だから秘匿と言うほどではないにしても、隔離されるのは納得できる話だった。



「まずは何事も基礎が大事だからな。最初に陰陽術の勉強から…と言いたいところだが、1から100まで教わらなければならないようでは一級陰陽師など夢のまた夢だ。」



(…ん?…あれ?)



初日ということで色々と説明してもらえると思っていたんだけど、

どうやらそうじゃないらしい。



「技術とは目で盗むものであり、自ら切磋琢磨せっさたくまして身につけていくものだ。」



それはまあ、言われていることは理解できる。


だけど何も知らない状況で自分で身につけるというのは本当に出来るものなのだろうか?



「すぐに理解しろとは言わない。だがまずは経験してみることだ。そのうえで何が分からないのかを自分で考えて、力を得るために必要な技法を学んでいけばいい。」



(………。)



まずは経験か。


基本的な知識がないからこそ、体でも覚えるのが一番手っ取り早いということだろうか。



それに、お手本を見ながらのほうが覚えやすいだろうからね。


全ての知識を頭に叩き込んでから実践するよりも体験しながら学んだほうが身に付きやすいのかもしれない。



「お願いします。」


「うむ。そこで、だ。」



不動さんの教育方針を信じてお願いしたことで、

不動さんは僕と兄上を交互に眺めてから今後の方針を聞かせてくれた。



「ひとまず今日は幻夜と仁王子、そして八雲と涼王子を二人一組として実践訓練を行いたいと思う。」



実践訓練?


一体、何をするんだろうか?



「肝心の訓練の内容だが、さすがに初日から無茶は出来ないからな。まずは簡単に鬼ごっことでも言っておこうか。」



(…え?)



鬼ごっこ?


陰陽術の修練なのに?


どうして鬼ごっこなんてする必要があるんだろうか?



「くだらないと思うかもしれないが、もちろん単なる鬼ごっこをしたいわけではない。」



(…ですよね。)



鬼ごっこが陰陽師の修行だとは思えない。


だからそこには単なる遊びではない隠された目的があるはずだ。



「最初に言っておくが、これは互いに攻撃有りでの対抗戦になる。」



対抗戦?


それも攻撃有りで?



「勝利条件は一つ。仁王子か涼王子のどちらかが相手の背中に触れることとする。」



(………。)



兄上の背後をとることが勝利条件なのか。


だから鬼ごっこなのかな?



「今回の行動範囲は訓練場内全域だ。一歩でも外に出たほうが敗北と判定するが、場内であればどれだけ動き回ってもらっても構わない。」



これだけの範囲を自由に?



「とにかく逃げ続けるも良し、反対に相手に攻め込むも良し。勝負の駆け引きは自由にすれば良い。ただし…幻夜と八雲がそれぞれに妨害を行うからな。そうそう簡単に近づけるとは思わないことだ。」



ああ、なるほど。


幻夜さんと八雲さんがそれぞれに僕と兄上の妨害を行うことで相手の勝利条件を満たさせないということだ。



「それと訓練の最中は物理的な攻撃は反則負けとする。そもそもこれは陰陽術の訓練なのだからな。単なる殴り合いなどしてもらっても意味はない。」



(…ですよね。)



「それに、だ。さすがに年齢で劣る八雲と涼王子は不利だからな。」



確かに体力の差は歴然だ。



兄上とは3つ違うだけだけど、

それだけ違えば体力的な差は明らかだからね。



そのうえ幻夜さんは兄上よりもさらに一つ上らしいから純粋な体力勝負になると勝てる気がしない。



「逆に言えば、この勝負を行う上で重要なのは勝つことではない。いかに相手の裏をかくかを考えて、必要な術式を身につけることが目的になる。」



…と言うことは、もしかして?



「今から3時間の猶予を与える。その間に仁王子と涼王子はそれぞれに幻夜と八雲から簡単な術を教わり、訓練で勝利するための作戦を考えるのだ。」



やっぱり、そういうことか。


鬼ごっこと言うのは分かりやすい試験であって、

幻夜さんと八雲さんから陰陽術を学ぶことが今日の目的のようだった。



「程よく9時になる頃だからな。勝負は3時間後の正午として、決着が着き次第、本日の訓練は終了とする。」



制限時間は3時間。


その間にどれだけの陰陽術を覚えて実践で使えるようになるか。


それが今日の課題と言うことだ。



「それではこれより訓練を開始するが、改めてこれだけは言っておく。あくまでもこれは陰陽術の訓練だ。単なる遊びではないと心しておくように。」


「はい!」


「分かりました。」


「うむ。それでは健闘を祈る。」



僕と兄上がしっかりと返事をしたことで不動さんは満足そうに頷いてくれていた。



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