基本的には
「あ、は~い。すぐに開けますね。」
『コンコン』と扉を叩くとすぐに唯の声が返ってきた。
どうやら扉の近くで待ってくれていたようだね。
返事をしてくれた唯は、ものの数秒で扉を開けてくれたんだ。
「お待ちしてました~。」
にこやかな笑顔で出迎えてくれた唯が、僕と香澄様を室内に案内してくれる。
「こちらにどうぞ。」
「ありがとう。」
「お邪魔するわね。」
女の子らしくて可愛い雰囲気がある室内。
唯の部屋は僕や兄上の部屋に比べると少し小さい気がする。
だけどその理由は唯が幼いからではなくて、隣接する衣裳部屋が大きいからだ。
そのうえ唯専用の浴室まで完備されているから、
部屋そのものは小さくても総面積では僕や兄上を上回っているんじゃないかな。
(…やっぱり母上も唯が可愛いんだろうね。)
基本的には兄上第一に見えるけれど。
ちゃんと唯のことも大切にしているのが感じられるんだ。
まあ、実の娘だからそれが当然だとは思う。
だけど唯はどちらかと言えば兄上よりも僕に懐いている感じがあるからね。
そのせいで扱いに困っているのかもしれない。
今回の婚約騒動も、見方によっては僕から唯を引き離そうとしていたようにも思えるからね。
それで唯が幸せになれるのならそれでも良いと思うんだけど。
さすがに8歳の唯にはまだ早すぎる話だと思う。
なんて、僕がああだこうだと考えていても仕方がないんだけど。
ひとまず婚約の話が先送りになったことで唯も普段通りの元気を取り戻したようだ。
今では先日の話がなかったかのように明るい笑顔を見せてくれている。
「え~っと、ここで良いですか?」
「ええ、ありがとう。」
窓際の明るい席に案内する唯に勧められて香澄様が進んでいく。
そうして香澄様が着席した後で僕と唯も席に着いた。
「えっと、今日は挨拶ですよね?」
「ええ、そうよ。」
率先して話を切り出したことで香澄様が笑顔で頷いてくれた。
「まあ、面談なんて言い方をすると堅苦しいけれど。いきなり当日にああしなさいこうしなさいなんて言っても上手くいくとは思えないでしょ?だから前もって簡単な説明をしておこうと思ったのよ。」
ああ、なるほど。
確かに何も知らずに始めるよりは多少なりとも話を聞いていたほうが良いだろうね。
「…とは言っても、私の管轄は唯王女であって涼王子ではないから不動がどういう方針で教育を考えているのは知らないけどね。」
そうなのか。
てっきりその辺りの話も聞けるものだと思っていたんだけど。
どうやらそこまでは期待できないらしい。
「まあ、やることは似たようなものだからおおよその予測は出来るけれど、予想はあくまでも予想でしかないから実際にどうするかは直接不動に聞いてもらったほうが良いでしょうね。」
「あ、はい。わかりました。」
「ごめんなさいね。お役に立てなくて申し訳ないけれど、私の予想通りだとするとむしろ何も聞かずに行ったほうが良いと思うから気合で乗り切ってね…っていう感じかしら。」
(………。)
気合って何だろう。
とても嫌な予感がする。
「ふふっ。まあ、楽な修行なんてないでしょうから、嫌でも頑張るしかないわよね。」
「そ、そうですね…。」
まさか香澄様に脅される日が来るなんて思っていなかった。
だけど陰陽師の修練は僕が思っている以上に大変なのかもしれない。
「でもまあ、さすがに唯王女にまで本格的な修行を行うわけにはいかないから、私が教えられるのは基礎的な部分だけになるでしょうね。」
(…ですよね。)
僕や兄上と違って唯はまだ幼いんだ。
無理な修行をして倒れてしまっては意味がない。
「長期的な計画を立てるとすれば、いずれは本格的な修行も必要になるとは思うけれど。まずは簡単なところから…って思ってもらえれば良いわ。」
「はい!頑張りますっ。」
「ふふっ。良い返事ね。それでこそ教え甲斐があるというものよ。」
「えへへへ~。」
(…はははっ。)
唯の笑顔を見ているだけで僕も笑顔になれる気がする。
そしてそれはきっと香澄様も同じで。
「ふふっ。」
いつも以上に楽しそうに微笑んでくれていたんだ。
『朝倉香澄』
前作では大司教として名前だけの登場でしたが、
今作ではちゃんと活躍してくれます。




