司教『朝倉香澄』
(…ふぅ。)
あれから数日が過ぎた。
僕と兄上、そして唯の参加が決まったことで話し合いは無事に終わったんだけど。
不動さんと香澄様に協力してもらうにあたって色々と準備が必要だったようで、
実際に陰陽師としての修行が始まるのは一週間後からということになったんだ。
そうして話し合いが終わってから何事もなく一週間が過ぎようとしているんだけどね。
いよいよ明日からという前日になって、一度香澄様から僕達に会って話がしたいと言われてしまったんだ。
まあ、実際には僕とではなくて唯との話し合いなんだけどね。
一応、家庭教師を引き受ける前に個人面談がしたいらしい。
具体的にどういった話し合いになるのかは知らないけれど、
せっかく王城に来るということで僕にも声がかかったんだ。
(こうして香澄様に会うのは何ヵ月ぶりだろう?)
お互いの立場もあって年に何回かしか会えないから凄く懐かしい気がしてしまう。
まあ、僕の場合はなかなか王城から出られないという理由だけどね。
香澄様の場合は司教という立場もあって、むやみに外出は出来ないらしい。
そんな事情があって僕達は年に何度かある祭事の時期くらいしか顔を合わせることが出来なかったんだ。
(…えーっと。)
とりあえずは唯の部屋に行けばいいんだよね?
教会の司教が王城に来るということで色々と挨拶周りが大変らしいんだけど、最終的に唯の部屋で合流すると聞いているんだ。
そろそろ良いのかな?
今日はお昼までに協会に戻らないといけないそうで午前中しか時間が取れなかったらしい。
だから午前10時頃に集まるように言われている。
それでもあまり早く行き過ぎても唯に迷惑をかけるかもしれないから5分前に着ければ良いと考えていたんだけど、
どうやら向こうも似たようなことを考えていたようだね。
「あら?」
「おはようございます。香澄様。」
唯の部屋の前で香澄様と鉢合わせしてしまったんだ。
「お久しぶりです。」
「ええ、そうね。しばらく見ないうちに少し背が伸びたんじゃない?」
「そうですか?自分では分かりにくいんですけど、香澄様は以前より綺麗になられたような気がします。」
「あらあらっ?嬉しいことを言ってくれるわね。」
「本当のことですから。」
「ふふっ、そう?だったら嬉しいわ。…でもね。いつも言ってるけど香澄様なんて他人行儀な言い方をしなくていいのよ?私だって一応は家族なんだから、もっと甘えてくれていいのよ?」
(…あ、ははっ。)
「そうしたいのは山々なんですけど。あまり甘えすぎると香澄様にも迷惑をかけてしまうそうな気がしますので…。」
「あ~、うん。まあ、否定はしないわ。同じ女としてあの人の気持ちが理解できないとは言えないから、擁護も非難も出来ないわね。」
(…ですよね。)
「だけど私のことは心配しなくて良いわよ。これでも時期大司教としてそれなりの地位にいるから、多少の嫌がらせなんて痛くもかゆくもないわ。」
(…ははっ。)
「頼もしいですね。」
「でしょう?だからもっと頼ってくれていいのよ。」
ええ、そうですね。
「泣きたくなったらお願いします。」
「………。貴方のそういうところは小春と良く似てるわ。」
「すみません。」
「ふふっ。謝らなくていいのよ。私の愛しい愛しい妹の一人息子なんだから、困ったことがあったらいつでも相談に来なさい。」
「はい!ありがとうございます。」
「うんうん。それで良いのよ。まあ、それはそれとして、唯王女も待ってるでしょうからさっさと話を済ませてしまいましょう。」
あ、はい。
そうですね。
「よろしくお願いします。」
「ええ。それじゃあ、行きましょう。」
数か月ぶりの挨拶を終えたあとで、
香澄様は唯の部屋に入るために扉を叩いた。




