聞き覚えのある理由
こうして兄上も参加することが決定した。
その結果として僕と兄上は不動さんの下で陰陽術を学ぶことになったんだけど。
「あ、あの~。」
今まで状況が呑み込めずに困惑していた唯が不動さんに歩み寄ってきたんだ。
「え、えっと、その…。どういう勉強なのか分かりませんが、もしよろしければ私にも教えていただけないでしょうか?」
「………。………。…ふむ。」
唯の申し出に迷う様子を見せる不動さんだけど、
だからといって誰も引き留めようとはしないようだ。
「まあ、教えるのは構わないのだが…。」
「………。」
さりげなく視線を向ける不動さんに対して父上は一度だけ頷いている。
これは唯の自由にさせるということかな?
まあ、女性が陰陽術を学ぶことが禁忌というわけでもないからね。
年齢的にどうかという問題はあるとしても、
唯が陰陽術を間ぶこと自体に異論はないようだ。
「ふむ。それならば知り合いを呼び出すか。」
(…え?知り合い?)
不動さんの交友関係は全く知らないけれど。
どうやら唯の教育は別の人に任せるつもりでいるらしい。
「俺は手加減が出来んからな。王女に関しては朝倉に任せようと思うのだが、それでもかまわないか?」
「おお、朝倉殿か。彼女ならば問題ない。安心して唯を任せられるというものだ。」
(…ん?朝倉?)
父上も知り合いの人なのかな?
ものすごく聞いたことがあるような名前なんだけど。
何故か朝倉さんの名前が出た瞬間に母上の機嫌が悪化したような気がする。
母上もご存じなのかな?
それも険悪な雰囲気を漂わせる相手となると相手は限られているはずだ。
(…って!もしかして?)
名前に聞き覚えのある理由。
それは僕の知り合いでもあるからだろうね。
(…香澄様のことか。)
いつも名前で呼ぶように言われていたからすぐには思い出せなかったんだけど。
王都で最大の教会において司教を務める朝倉香澄様なら唯の教育者として最も適切な人物だと思う。
なにより香澄様は教会に入る前は陰陽師として活躍していたらしいし、僕達とも面識があるからね。
話しやすい人なのは間違いない。
それに香澄様は僕の実の母上である御神小春のお姉さんで、
僕にとって数少ない血縁者でもあるんだ。
だからこそ母上は良い気がしないんだろうけどね。
自分の娘を僕の伯母に預けることになるわけだから、
僕と敵視する母上としては気に入らないはずだ。
とは言え今ここではっきりと反論すれば不動さんからの印象も悪くなるだろうし、
表向きには継続しつつある婚約の話まで破断しかねない。
さすがに母上もそこは気づくだろうから、香澄様では駄目だとは言えないはずだ。
だから今は何も言わずに我慢するしかないんじゃないかな。
(…もしかしたらこうなることも想定していたのかな?)
不動さんがどこまで考えていたのかは聞いてみないと分からないけれど。
現時点では僕や唯にとって良い方向に話が進んでいるのは間違いなかった。




