家庭教師
「ひとまず婚約に関しては今後の課題として、まずはこれからのことは話し合おうか。」
(…え?)
まだ何か話し合うことがあるんだろうか?
唯の婚約以外にもここに集まった理由があるのかな。
何も分からないままみんなの表情を眺めてみると。
おそらくは何も知らないと思われる唯だけではなくて母上や兄上も戸惑っているように見えた。
だとすると、もしかして母上も知らない話なのかな?
(どうなんだろう?)
良く分からないまま父上に視線を向けてみると、
何故か今度はしっかりと頷いてくれた。
(…ということは?)
もしかすると不動さんがここに訪れた本当の理由がこれから聞けるのかもしれない。
(…いや、それが当然か。)
唯の婚約が母上の独断だとすると、父上の意志は別にあるということだからね。
さっきは僕のことを相談していたと言っていたけれど、
そうなると僕に関係のあることなんだろうか?
安易には判断できないものの。
ここに不動さんのご子息がいる理由が婚約とは無関係だとすると、
そこにも何らかの意図があるというになる。
父上は何を相談していたのだろうか?
知りたいと思う気持ちが膨らむと同時に、
その答えが聞ける期待も膨らんでいく。
(…出来ることなら良い話であってほしいけどね。)
そんなふうに願いを込めながらもまずは不動さんの話を聞くことにした。
「今回ここに来た理由は両家の婚約どうこうではない。まあ、そこはついでだと思ってもらえばいい。」
やっぱり別の理由があるようだ。
「本来の目的は別にある。まあ、もちろんこちらに関しても強制するつもりはないのだが、王都に滞在中の間だけきみ達の家庭教師を引き受けることにしたのだ。」
(…え?)
家庭教師?
「すでに分かってくれているとは思うが俺は陰陽師だ。当然、きみ達に教えられることと言えば陰陽術しかない。」
(…ということは?)
不動さんが僕達に陰陽術を教えてくれるのだろうか。
もしも本当に教えてもらえるのであれば断る理由なんてない。
少なくとも不動さんは幻夜さんや八雲さんを育てているんだ。
その実績を考慮すれば僕達だって一流とまではいかなくてもそこそこの実力者にはなれるかもしれない。
(…正直に言えばやってみたい。)
不動さんは言ったんだ。
『自らの想いを隠すな。望むべき想いを叫べ。それが生きるということだ。』と。
(…だったら。)
もしも許されるのであれば。
もしも挑戦することが出来るのであれば。
僕が僕であるために。
そして僕を必要としてくれる人のために。
僕自身の意志で生きたいと思う。
「どうだ?学んでみる気はあるか?」
不動さんに問いかけられた言葉。
その質問に対する僕の答えは一つしかなかった。
「お願いします!僕に陰陽術を教えてください!」
真っ先に名乗りあげたこと。
それが母上や兄上の気分を害する行為だったとしても。
僕は今回の話から逃げる気にはなれなかった。
「やってみたいんです!」
陰陽術を学んだからと言って何かが変わるわけじゃない。
だけど何もやらなければ何も変わらないんだ。
「お願いしますっ!!」
必死になって頭を下げた。
そして必死になって教えを願った。
そんな僕の行動を見ていたみんなの反応は様々だった。




