来客
《サイド:不動幻夜》
(…ん?)
時は夕刻。
神宮内にある宿舎の自室において八雲と明日の予定に関して話し合っていると、
不意に誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
(…誰か来たのか?)
この時間だと恭子様だろうか?
食事の準備が出来たことを知らせに来てくれた可能性は高いのだが。
(…いや、違うな。)
そもそも恭子様なら足音を立てて歩くようなことはしない。
わざと気配を隠しているわけではないだろうが、
物音を立てずに歩く技術は卓越しすぎていて未だかつて一度も接近に気付いたことがないのだ。
それは見えていない時もそうだが、
話を終えて立ち去る時でさえ無音で去っていくのだからな。
一体どうすればそのような歩法が身につくのかはわからないが、
足音が聞こえるという時点で恭子様ではないのは確実だろう。
(…恭子様ではないとすると、誰かが伝令でも受けたのか?)
それ以外に思いつかないことで扉に振り向いてみると。
「…何だろうな。」
八雲は接近してくる人物に気付いているのか、軽く首をかしげていた。
「わざわざここまで来るのは珍しいよな。」
(…珍しい?)
一体、誰が来たのだろうか?
八雲はすでに気付いているようだが、
足音だけで分かるほど気配の察知は極めていないから推測さえ出来ない。
「誰が来たんだ?」
「ん?ああ、まあ、すぐに分かるさ。」
説明が面倒だったのだろうか?
それとも説明するよりも待ったほうが早いと考えたのだろうか?
八雲は説明を避けて扉へと近づいていく。
「とりあえず開けるか。」
来訪者を受け入れるために扉に手を伸ばす。
八雲の手が扉へと届く前に、『コンコン』と扉が叩かれた。
そして。
「杞憂だ。話があるのだが構わないだろうか?」
わざわざ宿舎まで訪れてくれた杞憂様が扉の向こう側から話しかけてきたのだ。




