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THE HANGED MAN  作者: SEASONS
5日目
113/499

投獄

「仁王子が戻られました!」



兵士の声が聞こえた直後に謁見の間の扉が開かれる。



(…兄上。)



「仁お兄様…。」


「………。」



真っ先に唯が出迎えようとしたんだけど、

兄上は不機嫌さを隠そうともしない表情でまっすぐに歩みを進めてくる。


そして僕の横を無言で通り過ぎてから玉座の前まで進んで、ゆっくりと僕達に振り返ったんだ。



「…さて、色々と言いたいことはあるが、まずは最初に宣言しておこうか。」



挨拶さえも後回しにして話し出した兄上は、

僕を睨み付けながらそうすることが当然のことのように玉座に腰を下ろした。



「何やら俺の留守中に好き勝手やっていたようだが、それも今日までだ。」



今まで以上に憎悪が込められた言葉。


その言葉を聞いただけで話し合いは無理だと感じてしまう。


おそらく父上も母上もいなくなったことで、我慢することを止めてしまったのかもしれない。



「今この時より、アルバニア王国の国王には俺が就任する。」



相談も何もないまま。


周りの意見なんて一切聞くこともなく。


兄上の帰還によって慌てて駆けつけてきた貴族や大臣達にも聞こえるように、

堂々とした態度で国王になることを宣言していた。



「異論は一切認めない。もとより第1王子である俺が王位を継ぐのは当然の流れだからな。この決定に不服を申し立てる者は反乱の意志があるとみなす。」


「「「「「………。」」」」」



突然の宣言と一方的な発言。


本来なら許されない行為ではあるけれど。


僕が引退を宣言していることによって誰も僕を擁護しようとはしなかった。



(…それで良いんだ。)



下手に僕を庇えば反乱の意志があると判断されかねないかrね。


そうなれば何らかの処罰は避けられないし、兄上からの印象も悪くなる。



だからそんな無駄なことに労力を割くよりも、

今後のために黙っていてもらったほうが都合が良い。



「…どうやら不満のある者はいないようだな。」



誰一人意見を申し立てなかったことで、

兄上の国王就任は無条件で認められることになった。



「…さて、そのうえで反乱の首謀者をどうするかだが。」


「ま、待ってください!仁お兄様っ!」



兄上の言葉を遮るために、唯が兄上に駆け寄っていく。



「涼お兄様は、仁お兄様のご不在を支えてくださっただけです!それなのに反乱などという不名誉な扱いは納得できません!!」


「だからこそだ!俺の不在時に国王代理を名乗ること自体が問題なのだ!」


「ですが!」


「ええい!黙れっ!!妹と言えども俺の判断に口出しすることは許さんぞ!」


「お、お兄様…。」


「俺は国王だぞ?陛下と呼べ。」


「………。」



兄上の指示を受けても唯は何も答えない。


その代わりに、悔しさで瞳に涙を浮かべていた。



(…このままではまずいな。)



あまり兄上を刺激するのは得策ではないからだ。


ここは出来る限り穏便に話を済ませて兄上を落ち着かせたほうが良い。



(…こうなったら行くしかないか。)



下手に唯に声をかけることもできない。


僕が指示を出せば唯は下がってくれるだろうけど、

その行動によって兄上の指示は聞かなかったという事実が残ってしまうからだ。



(ここは僕が仲裁するしかない。)



上手くいく自信はないけれど、

僕の問題は僕が解決するしかないんだ。



「兄上…いえ、国王陛下。」


「………。」



臣下としての礼をとって膝をつく。


この瞬間に僕と兄上の上下関係は決定したと言ってもいい。



「陛下の言い分はもっともです。ですので僕としてはどのような処罰も受け入れるつもりでいます。」


「ほう、ようやく立場の違いがわかってきたようだな。」



(………。)



ようやくも何も、僕としては最初から敵対するつもりなんてなかったんだけどね。


それでもこうして上下関係を明確にしたことで少しは兄上の気分も落ち着いてきたようだ。



「今回のことは兄上に相談する時間がなかったとはいえ、独断専行と言われれば返す言葉もありません。」


「ああ、当然だ。」


「はい。ですので、もしよろしければ王位継承権を破棄したうえで野に下ることをお許しいただきけないでしょうか。」


「ほう。ようやくこの城を出ていく気になったのか。」


「…ええ。」



実際には『ようやく』ではなくて以前から考えていたことだけど。


こうして兄上に相談するのは初めてだから意見に食い違いがあるのも仕方がない。



「陛下の許可さえ頂ければ、これからすぐにでも王都を離れようと思っています。」


「なるほど。悪くはない考えだ。」


「それでは…。」


「いや、まだダメだな。」



(…え?)



「俺としては今すぐにでも追い出してやりたいところだが、いくらここで俺が国王就任を宣言しようと民はまだ何も知らない状況だ。それなのにお前を追放したという噂だけが流れるのは実に不愉快だ。」



ああ、なるほど。



感情だけで話を進めているように見える兄上だけど、

ちゃんと物事を考えてはいるようだ。



(…確かに今すぐには無理だろうね。)



すでに兄上は敵前逃亡の事実が噂として広まっている。


そして不動さんを撃退したのが僕だという噂も広まっているんだ。


この状況で兄上が僕を追い出したとなれば民からの信頼が低下しかねない。



だから僕がここを離れるのは兄上が国王として何らかの実績を出してからでなければダメなんだ。



…そうなると。



「前国王陛下と王妃の葬儀を終わらせるまでは大人しくしてもらうぞ。」



兄上の最初の仕事として父上と母上の葬儀を執り行う。


そうして兄上の手腕を世間に見せることで信頼の回復を図りつつ、僕の居場所を無くしたあとで僕の自由は認められるということだ。



「それまでは…そうだな。下手に動き回られては目障りだからな。地下で大人しくしていてもらおうか。」



(…やっぱり、そうなるのか。)



「お兄様っ!」


「お前は黙っていろ。」


「…っ!」



再び唯が反論しようとしているけれど、

兄上は一切聞き入れようとしないだろうね。



「葬儀が終わるまで涼には地下牢に入ってもらう。異論はないな?」


「…分かりました。陛下のご指示に従います。」



こうなることは予想済みだ。


今更戸惑うつもりはない。



「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。」


「…ふん。」



最後の礼儀として頭を下げてみたものの。


兄上は何も言わずに視線を逸らしてしまう。



(…結局、最後までこんな感じなのか。)



せめて最後くらいはまともに話し合えるかもしれないと期待していたんだけど。


そうやらそこまで甘くはなかったようだ。



(…まあ、いいか。)



ひとまず想定通りの結果にはなった。


あとは一日も早く王城を出られればいいんだけど。


しばらくはただただ待つしかない。



「それでは失礼いたします。」



改めて一礼してから兄上に背中を向ける。


そうして僕は自らの意思で地下の牢獄に向かうことにしたんだ。



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