母の策略
「さて、改めて…と言うのも変な感じになるが、婚約の件に関しては当人の意志に委ねようと考えている。こういうものは他人が強制しても良い結果にはならないだろうからな。」
「「「「「………。」」」」」
不動さんの意見に対して誰も何も言わなかったけれど。
どうやら今日この場で唯の婚約が決まるわけではないようだった。
(…だとすると、これは父上の判断ではないのかな?)
政略結婚なら国王の命令で強制的に婚約が決定するわけだからね。
もしもそうなら本人の意思に任せるという話にはならないはずだ。
(…と言うことは?)
母上から先に唯を紹介したことを考えると、
父上や不動さんの判断で話が進んでいるわけではなくて母上の一存でこういう状況になったのかもしれない。
まあ、その考えは分からなくもないかな。
唯が不動さんのご子息と結婚するということは不動さんが唯の義理の父親になるからだ。
そうなれば超一流と呼ばれる陰陽師との血縁が成立して兄上の後ろ盾として心強い存在になる。
結局は兄上を次期国王にするための策略だけど、
この話が唯にとって必ずしも悪条件とは言い切れない。
唯にとっても不動さんは心強い存在だと思うし、
今ここで挨拶をした感じで言えば幻夜さんにしても八雲さんにしても人当たりが良さそうな人に思えるからだ。
そもそもいずれどこかに嫁ぐことにはなるわけだからね。
良い人を捜したいと思う気持ちもわかるんだ。
それに兄上が国王になれば唯は他国との政略結婚に利用されることになる。
もちろん僕が国王になったとしてもいずれはそうなるんだろうけど。
どちらにしても唯がこの国に残れる可能性は低い。
王家の一員として生まれた以上、婚姻は避けて通れない道だからね。
純粋に好きな人と一緒になるというのはまず無理だ。
可能性だけで言えば国内の有力な貴族との婚姻もあり得るだろうけど、
その場合は相手の貴族も王家の血縁になってしまうことで兄上の地位が揺らぐ原因になりかねない。
よほどのことがない限りは国王の地位を失いことはないにしても絶対にありえない話ではないからね。
僕のことさえ敵視する母上がそんなことを許すはずがない。
だから貴族との婚姻は考えられない。
だけど相手が不動さんなら話は別だ。
貴族ではない不動さんが国政に加わることは出来ないからね。
唯一、唯の婚姻相手だけは発言権を得ることになるだろうけど、
政治に関わらないように遠ざけておけば何も出来なくなるだろうから恐れる理由にはならない。
(…その辺りが母上の判断かな?)
他国との繋がりも大事だけど。
不動さんという後ろ盾が得られるのなら唯を手放しても惜しくはないと考えたのだと思う。
だけどそんな母上の考えは不動さんも理解しているはずだ。
そうでなければ本人の意思に任せるなんて言い出さないはず。
母上に利用されるのを避けるために。
あるいは面倒ごとを避けるためかもしれないけれど。
不動さんとしては政略結婚を受け入れるつもりはない様子だった。




