特別な場所
(…うーん。)
ここに来るのはひさしぶりな気がするね。
唯は時々ここに来て香澄様と一緒に庭園の手入れを手伝っていたるらしいんだけど。
僕は剣の修行や陰陽術の訓練が忙しくてなかなか時間が取れなかったんだ。
そのせいか。
大聖堂の2階に来たのもひさしぶりだけど庭園に入るのは数か月ぶりな気がした。
(昔は母さんもここの手入れをしていたんだよね。)
香澄様と二人で、姉妹仲良く庭園の手入れをしていたらしい。
そんな母さんに惚れ込んだ父上は、
どうしても結婚してほしいとこの場で告白したそうだ。
(もちろん僕はまだ生まれてもいないから当時のことは知らないけどね。)
それでもこの場所は僕にとっても特別な場所だと思ってる。
僕の記憶には無いとしても、
ここは母さんの思い出が残る場所だからね。
噂話や似顔絵では分からない母さんの思い出がこの場所にはあるんだ。
(どんな人だったのかな?)
父上も香澄様も僕は母さん似だと言うけれど、
さすがに2歳になる前に亡くなってしまった母さんのことは何も覚えてない。
だから香澄様を見ることで母さんの姿を想像してみるんだけど、
上手く思い浮かべられたことは一度もなかった。
(…まあ、今となってはどうしようもないんだけどね。)
淋しいと思うし、悲しいとも思うけれど。
ないものをねだっても仕方がないんだ。
それよりも今はこれからのことを考えるべきだと思う。
せめて唯と香澄様には幸せになってほしいからね。
だから僕は僕に出来る精一杯のことをしようと思うんだ。
不動さんが何を考えているのかは分からないけれど、この国を亡ぼすようなことはさせない。
少なくとも僕の大切な人の命を奪うようなことを許すわけにはいかないんだ。
(不動さんは僕が止めてみせる。)
そんなふうに考えていると。
「待たせてごめんね。」
不意に背後から香澄様の声が聞こえてきた。




