お祈り
「失礼します。」
まずは大聖堂に入って周囲の神官達に挨拶する。
そのあとで大聖堂の中を見回してみたんだけど。
肝心の香澄様の姿は見つけられなかった。
(もしかしていないのかな?)
そうなると少しだけ困ったことになるんだけど。
今ここにはいないというだけで、私室かどこかにいる可能性はあるだろうから確認だけはしておいたほうが良いだろうね。
「…あ、すみません。」
「はい?」
たまたま通りかかった修道女の一人に声をかけてみたことで、
彼女は足を止めてからすぐに僕に振り返ってくれた。
「あっ!りょ、涼王子様!?」
「ああ、うん。そうなんだけど、お仕事中に邪魔をしてごめんね。」
「いっ、いえいえ!そんな、滅相もないですっ!王子様がおられるのに気づかなかった私のほうこそ申し訳ありませんっ。」
あー、うん。
いや、まあ、そこまで謝ってくれなくても良いんだけどね。
むしろそこまで気を遣われてしまうと声をかけないほうが良かったかなとさえ思ってしまう。
でも、まあこれで香澄様の居場所が聞けるだろうから、さっさと話を進めてしまおう。
「えっと、朝倉司教様を捜してるんだけど、どこにいるか知らないかな?」
「し、司教様なら朝早くに孤児院へ行くと言ってお出かけになられましたので、今ここにはおられないはずです。」
そうか。
どうやら香澄様は大聖堂の裏手にある孤児院にいるらしい。
だったらどうしようかな?
孤児院に向かうのは簡単だ。
大聖堂を出てから5分ほど北に歩けばすぐにつける距離だからね。
だけど秘宝をもって孤児院に向かっていうのもどうだろう。
関係のない子供達を巻き込みたくはない。
何よりあの孤児院は渚も育った大切な場所だ。
戦いに巻き込まれるようなことだけは絶対したくない。
(…うーん。)
出来ることなら香澄様が戻ってくるまでここで待っていたいんだけど、
いつ帰ってくるのかが分からないとなるとそれはそれで困ってしまうよね。
(せめていつ戻ってくるか分かればいいんだけど…。)
「朝倉司教様はいつ戻ってくるとか言ってなかったかな?」
「あ、いえ…すみません。そもそも私が聞いた話ではなくて、早朝の定期連絡で聞いた報告ですのでいつ戻ってくるかまでは…。」
やっぱり分からないらしい。
だったら仕方がないね。
「朝倉司教様が戻ってくるまで待たせてもらっても良いかな?」
「あ、は、はいっ!もちろんです。応接室にご案内いたしましょうか?」
「いや、ここで良いよ。せっかくの時間だからね。僕も礼拝させてもらうよ。」
最初からそのつもりだったわけじゃないんだけど。
せっかくここまで来たんだ。
兄上との話し合いが上手くいくことを願ってお祈りの一つでもしておこう。
「もし朝倉司教様が戻ってきたら教えてくれないかな?」
「あ、はいっ。すぐにお知らせに参ります。」
「うん。よろしくね。」
「はい!」
僕のお願いを快く引き受けてくれた彼女は、
丁寧にお辞儀をしてから立ち去って行った。




