一定の条件
「おそらく恭子が悪鬼に堕ちることはないでしょう。」
おそらく?
だとすればそれは断言はできないということだ。
「絶対ではないということですか?」
「え、ええ…まあ、確実とは言い切れませんが、悪鬼に堕ちるには一定の条件があるようなのです。」
「その条件と言うのは何ですか?」
「それは…瘴気に取り込まれることです。」
瘴気?
そういえば7年前に戦った鬼はひどく濃い瘴気を纏っていたように思う。
「多くの瘴気を浴びることで精神が異常をきたした鬼だけが自我を消失させて暴走するようなのです。」
ああ、なるほど。
もしもその法則が事実であれば瘴気に触れさえしなければ暴走しないことになる。
それが絶対ではないけれど暴走しないと断言できる根拠のようだ。
「ですので恭子に関しては心配知りません。少なくともこの王都にいる限りは瘴気を浴びることなどないのですから。」
確かに、そうかもしれない。
王都を離れれば瘴気を浴びる危険性はあるけれど。
王都の中に居れば瘴気を浴びる可能性はまずないはずだ。
それこそさきほどのように虎王達が襲撃でもしてこない限り。
(…って、あれ?)
これはどういうことだろうか?
「申し訳ありませんが、もう一つだけ質問しても良いですか?」
「え、ええ。私に答えられることであれば…。」
申し訳なさそうな表情で頭を下げてくれる杞憂さんを見ていると少し聞きにくいけれど、
恭子さんは虎王達の瘴気を浴びていたはずだ。
量的にどうなのかは分からないけれど、
謁見の間に広がっていた瘴気を全く浴びていないということは考えられない。
「今の話だと…。」
どうしても矛盾があると思うんだけど。
「瘴気を浴びるだけならまだ大丈夫なのよ。」
僕が質問する前に、恭子さんが話を聞かせてくれた。
「瘴気を浴びることで魍魎の声が聞こえるようになるわ。それが第1段階で魍魎の声に精神を汚染された時点で自我が崩壊するようね。それが第2段階と言えるわ。」
なるほど。
そういうことなのか。
単に瘴気を浴びるだけではなくて、
魍魎に取り込まれることで悪鬼に変わってしまうらしい。
「最終的に魍魎に体の自由を奪われた鬼が貴方達の知る悪鬼の正体よ。」
つまりは第3段階。
自我を奪われて体の自由まで奪われた鬼が僕の知る悪鬼の正体だったようだ。
「だからこう言えば分かるかしら?もしも魍魎に体を奪われずに、鬼の力を制御できる人物がいるとすれば?」
(…あっ!)
そうか!
そういうことなのか!
先程現れた鬼道四聖神達は魍魎の悪意に耐えきって力を得た鬼達だったんだ。
(…と言うことは?)
不動さんは意図的に鬼の一族を集めて仲間に引き込んでいたということだろうか?
「だとしたらさっきの鬼道四聖神も恭子さんと同じように鬼の血を引いているのですか?」
「…いいえ。彼等はれっきとした人間よ。おそらくは陰陽師としての才能によって強引に魍魎を制御しているのでしょうね。」
ああ、なるほど。
虎王達も鬼の一族かと思ったんだけど。
どうやらそうではないらしい。
「彼等も言っていたけれど、魍魎の力を『式神』として使役しているのでしょうね。それが彼等の力の正体よ。」
そうか。
鬼の一族じゃなくてもそういうことが出来るのか。
「彼等は疑似的な鬼よ、だから体の強さは人間と何も変わらないわ。ただ、扱える能力は鬼に匹敵するでしょうけれど。」
なるほど。
僕の攻撃が通じたのは虎王が本物の鬼ではなかったからのようだ。
「まあ、私が教えられるのはこの程度よ。だから不動時雨がどこにいるのかなんて知らないし、彼等が何を企んでいるのかも知らないわ。」
あくまでも鬼として知っている知識を話せるというだけで、
不動さん達に関してはそれほど詳しくは知らないようだった。
残る問題は双葉の名前を出しただけで虎王達が撤退した理由だけど。
「私からも良いかしら?」
僕の質問が終わったことで、今度は香澄様が問いかけようとしていた。




