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風邪
「ゴホッ…ゴホッ…」
痰が絡む重篤な咳である。廃病棟で妙なウイルスをもらってきた可能性は否めないが,おそらくは明日香との対峙で心身ともに疲弊したのであろう,真依子は39度の高熱でベッドに伏していた。
「うぅ,結城君,気付いて…」
真依子はスマホの画面を見つめる。結城君のLINEにはすでに1000通以上メッセージを送っているが,なかなか既読が付かない。結城君のスマホは壊れているのだろうか。
「死ぬう…誰でもいいから助けに来て…」
うなされた真依子が,思わず天井に向かって弱音を吐く。
「お嬢ちゃん,呼んだか?」
「うわあ! 下ネタ神!」
突然天井に現れた神様に,真依子の心臓が飛び出そうになる。
「呼んでない! 誰でもよくてもあんたはダメ! レディーの寝室に入って来ないで!」
「そんな言い方はないじゃろ。お嬢ちゃんがピンチだから助けに来たのに」
「だったら,廃病棟で呼んだときに来てよ! 私,一生恨みを引きずるタイプだから!」