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ビビリ
市内でもっとも利用者数の多い病院と同じ敷地内にある廃病棟は,見た目からして一切人を寄せつけていなかった。壁を覆う交差する線はひび割れか蜘蛛の巣かあるいは両方か。ドアが取り除かれた入り口の向こうには果てしない闇が続いている。
「真依子様,僕はここで待ってます」
入り口で笠井が足を止める。
「はあ? ふざけないで? この中に明日香さんはいるんだよ?」
「僕は無理です」
「怖いの?」
「当たり前じゃないですか! 過去にゾンビウイルスが蔓延していた廃病棟ですよ!?」
「看護婦さんが言ってたじゃない。『ゾンビはなんとかした』って」
「『なんとか』って何ですか!? なんともならないでしょ!」
「きっとあれじゃない? 時間が解決したんじゃない?」
「しませんよ! 相手はゾンビなんだから!!」
「っていうか,私一人に行かせて私の身に何かあったらどうする気?」
「泣く泣く竹下通りで新しい巫女さんを探します」
「あんた,ロクな死に方しないからね」