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おはよう
ふあぁ,と女性があくびをした。
それに呼応して篤志の顔が蒼ざめる。
「ヤバイ…。姉ちゃんが起きた…」
明日香は神社の石畳の上で,「ローマの休日」のワンシーンのように気持ちよさそうに伸びをした。
「ふあぁ。よく寝たわ。…あれ,ここはどこ?」
上体を起こした明日香が,辺りを見渡す。
「あら,源義経じゃない。おはよう。今はここで身を隠してるのね」
明日香が向いている方向には何もない。
不審な顔をする真依子と笠井に対して,篤志が苦虫を噛んだかのような表情で言う。
「幽霊です。姉には源義経の霊が見えるんです…」
明日香は,今度は神社の本殿の方向に話しかけた。
「あら,山本五十六じゃない。おはよう」
「山本五十六がいるんですか? ここは靖国神社ではないですよ?」
明日香は,有名人の幽霊に挨拶するのに夢中で,笠井のツッコミが耳に入っていないようだ。
「あら,リンカーンじゃない。おはよう」
「なんでいるんですか!? ここは日本ですよ!?」




