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トレーニング
神社に訪れる者は,みんながみんな参拝目的ではない。神様の存在なんてちっとも信じていないのに,毎日実直に神社に通う者がいる。
いわゆる「トレーニング勢」である。
高校がお休みの土曜日,真依子は早番で出社していた。
「うーん,毎日箒で掃いてもすぐ落ち葉が溜まるんだよね…。いっそ境内の木を全部伐採しちゃおうかしら」
境内を箒で掃きながら独り言を呟く真依子の目に,荒い呼吸で境内までの階段を昇る「トレーニング勢」の姿が飛び込んできた。
「重りを背負いながらトレーニングだなんて感心だね!」
手を振りながら真依子が声を掛けると,男性は息を切らしながら,喘ぎ声のような声を吐き出した。
「はあはあ…,これはトレーニングじゃないから」
「じゃあ,なんで重りを背負ってるの?」
「重りじゃないよ。人間だから」
「え? トレーニング用ダッチワ◯フでしょ?」
「そんないかがわしいトレーニング用品ないから! 姉を背負って神社に連れてきたんだ!」