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最終手段
真依子の視線が、スーツ姿の男性から、彼の背後の景色へと移った。スーツ姿の男性を躱して歩を進めようとした真依子の腕を、スーツ姿の男性がすかさず掴む。
「どこに行くんですか?」
「離して。私、そんな暇じゃないの。処女フェチの神様に構ってる時間はないの」
「用事でもあるんですか?」
「今日中に竹下通りを10往復するの。そうすれば、鈍い芸能スカウトも、さすがに私の存在に気付いてくれるでしょ?」
スーツ姿の男性が苦い顔をするのを無視して、真依子が続ける。
「っていうか、私、無神論者だから。神様なんて信じてないから。神様なんているわけないじゃん」
「神様はいます!! ST◯P細胞はあります!!」
「怪しい……。じゃあね」
再び去ろうとする真依子の鼻先に、数枚の万札が突きつけられた。
「こうなれば最終手段です。僕に付いて神社まで来てくれたら、8万円あげます」
「え!? マジで!? こんなにくれるの!? 行く行く!! 神!! マジ神!!」