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猿猴捉月
「真依子、猿猴捉月っていう四字熟語知ってる?」
「知らない」
「だよね。教えてあげる」
「はい」
「昔々バカな猿がね、水面に映った月を本物の月だと勘違いしたの。でね、その月を取るために猿は木の枝につかまって必死で手を伸ばしたわけ。すると、枝が折れて、猿は落っこちて溺れ死んだ」
「へえ」
「身のほどもわきまえずに欲を出し過ぎて自滅する、っていう意味の四字熟語ね」
「なるほど」
「身に覚えはない?」
「え? どういうこと?」
美雨が眉を顰める。
「真依子、あなたはなぜそんなにビショ濡れなの?」
重たくなった真依子の制服からポタポタと落ちる雫を目で追いながら、美雨は冷たい口調でさらに重ねる。
「ねえ? どうして?」
「…池に飛び込んだから」
「なんのために?」
「金色のものが池に映ってたから、もしかしたら金塊が沈んでるのかなって思って」
「でも、それは池に映った金閣寺だったのよね?」
「はい」
「あなたの知的レベルは猿並みね?」
「うぅ」




