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みさめ
真依子は慌て辺りを見渡す。クラスメイトはすでに東大寺南大門をくぐった先にいるようで、真依子の周りには誰もいなかった。
ただ一人の厄介な女子を除いて。
「真依子、一人で何しているの?」
「みさめ…」
森岡美雨。
生徒会長。
読み方が「春雨」と同じ方式のキラキラネームは許容範囲だが、美雨には明確な欠点が存在している。それはデリカシーがなく、思ったことをズバズバ言ってしまうこと。
ゆえに彼女の二つ名は、「素直過ぎる生徒会長」。
「真依子、今鹿と話してたよね? 気が触れたの?」
「違う! これは事故!」
「無理しなくていいよ。真依子には友達がいないからね。寂しくて鹿に話しかけちゃう気持ちも分かるよ」
美雨の一言一言が、まるで槍の雨のように真依子の心に突き刺さる。
「友達なんていらないもん。私、一人が好きなんだ」
「単にクラスメイトに避けられてるだけでしょ? カッコつけないで」
美雨の三つ目の呼び名、それは「PTSD製造機」である。