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霊異譚イチャつき絵巻  作者: ヘルニアス洋
紺碧に眠る負の遺産編
99/101

06 激闘の末に

 舜治一同が悲鳴の元へ駆けつける。

 爆光ライトに照らされた裸族が片手で小太りを吊り上げている様にただただ驚くばかり。


「なんでこうなってんの?」


「恐らくあの変な男が封印を破って、お礼に殺されかかっている、ってところですね」


 お千香の冷徹な状況分析に聞かされたほうがいたたまれなくなりそう。更にはお千香の言う変な男は裸族のほうではなく、吊られている吉田を指す。


「死んではいないな……」


「ゴキブリ並のしぶとさです」


「お二人はどうしてそこまで落ち着いていられるんですか!」


 常人なら誰もが思う稲田のツッコミは今さら二人が感じるところもない。


「げぶぅ」


 ゴミのように打ち捨てられた吉田はかろうじて息をしていた。


「復活してしまった……」


 悪霊が憑いているだろうフンドシ男がらんらんと発光する赤目を向けてくる。

 稲田の落胆が酷い。洞窟内ゆえ顔色までわからないが、蒼白くらいには悪いだろう。


「若様、アレに勝てるんですか?」


「愚問!」


「俺に言わせんのかい!」


 何故に妖姫が代返するのか。制するように掌を突き出してまで。この巫覡にとってはそうなのだろうが、悪霊と対峙している真っ最中ならもっとそれらしくしてほしい。


「奇天烈な取り合わせよな……何故、妖魔と霊媒師が一緒におる?」


 若干蚊帳の外だった悪霊がしゃべった。鋼の筋肉美を魅せる男は声も耳障り良い美声であった。


「愛し合うもの同士、いつも一緒にいるのは当然です。そんなこともわからないのですか」


 腰に両手をあて凛々とした佳人。ピノキオの鼻より高くそびえる。


「煽るやつがあるか!」


 夫婦漫才は意外や悪霊に好感触。


「ふっはっはっはぁーーっ! 愉快ではないか、遊んでやろうぞ……む、もう一人から憎っくき物部の臭いがするようだのう」


 封印されたことは憶えているようだ。

 さりとて霊媒ではないはずだが、稲田の身が固くなる。まさか自分に向けられるとは。


「まあ良い。誰も生かして帰さんことに変わりはない」


 悪霊憑きが一歩踏み出す。次の二歩目に目を剥いた。

 どんな手品か刹那に舜治の眼前に迫り、魔手が首元を襲わんと伸びてきたのだ。


「ほう」


 悪霊が喜色を浮かべる。己が伸ばした腕が止められたのにもかかわらず。否、止められたことが嬉しかったとみる。


「わっちの主様に触れること許さぬ」


 ご存知最強無比の守護神は鉄壁の護り。即座に掴んだ腕をひり上げ、胴へ前蹴りを放つ。

 強烈な蹴りは悪敵を石棺まで吹き飛ばし、割れた天蓋が欠片と散る。


「なんと……」


 展開に全くついていけない稲田はただの傍観者。かの巫覡も棒立ちだからそう変わらず。


 悪霊憑きがインターバルもなく立ち上がる。コリでもほぐそうかと首を二、三動かすだけ。ダメージがなさそうだ。


「やるではないか、魔物の分際で」


「木っ端悪霊が吠える」


 この激突はお互いの突進から。衝撃の音と波が周囲の岩肌に響く。舜治の着ているシャツも波打っていた。


 幾合かの突きと蹴りの応酬。お千香がこれほど手数を要するのはまず見ない。

 されど真っ向互角に見えて、その実はさにあらず。男の攻撃は膂力に勝る妖姫が全て受け止めているが、その逆がない。お千香の剛力を止められず、躱し捌くのが精一杯。またたく間に防戦一辺倒へ。

 飛縁魔の眼が黒いままなのがその余裕を物語る。そもそも敵が赤目なのが気に食わない。妖力が上がる赤眼には意地でもしないのは当人のみが知る。


 ここが決め時。強力な前衛(おちか)がいるからこそ後衛(しゅんじ)が強大な魔法(れいげき)を撃つことができる。


皇御孫(すめみま)(あが)、請い願い奉りて、現出(あれいで)ませい、フツノミタマ!」


 顕現する神剣を半身にて片手上段に構える。得意の雄詰(おころび)を放つ。


「イーーッ、エァーーッ!」


 お千香に合図は不要。寸前で身を翻す。

 禊祓えの霊撃が悪霊男に遂げられた。爆発に似た炸裂音が大きく木霊する。


「わぁーー、うわ」


 衝撃波で意識が戻ったらしく、転がっていたはずの吉田が転がるように逃げていった。どうでもいいと追いもしない。


「お見事です。邪気も消えているように感じます」


 埃を払いながらもお千香は再度石棺に突っ込んだ悪霊憑きを注視する。決まったと思い込んで不意打ちを食らうわけにはいかない。

 瓦礫に埋まっている身体は生物としての体温を持っていないことも確かめた。今の今まであれだけ動いていたのがありえない冷たさだ。


「残滓っぽいのがあるか……それにしても凄かったな、お千香。映画みたいなバトルシーンだったぞ」


「言わないでください」


 顔を覆いクネクネと恥じらっていた。


「終わりでしょうか? 悪霊を滅ぼしていただけたのですか?」


 事態の終息を確認したい稲田がライト片手に寄ってくる。チラチラとお千香を気にしながら舜治を盾にするような位置取りなのは無理もない。


「消滅しています。しっかし、この男が封印を破ったのか? 確かに人間だった……自分に憑依させるのが目的だったのか……」


「まあ舜治にかかればいずれの敵もあっけないものです」


「いや、憑依した後に狙いとかあるもんだろ。何か知りません?」


「そういった報告はありませんが……時に、石棺の中に茶釜のようなものはありませんか?」


「茶釜?」


 妙なことを聞いてくる稲田である。舜治は何のことやらさっぱりな感じ。茶釜のイメージも出てこない。

 こんな時は長生きさんが応えてくれよう。


「お茶立てに使う湯沸かしの釜ですね」


 これくらい、と大きさを手振りしてくれる。30センチないくらい。


「それが何か?」


「いいでしょう、後ほど探すといたします」


 稲田の雰囲気が暗転した。

 立ち位置がちょうど一直線に並ぶ時を図っていたのだ。厄介な女妖怪は恨むべき巫覡の後ろにあって見えないはず。


「この島を気に入ってもらえたのに残念です」


 稲田の語りは抑揚を失っていた。


「なっ!」


 どこに隠していたのか拳銃を構え、照門と照星、標的が重なる。


「ですが、私は昔から大っ嫌いだったんですよ」


 舜治が拳銃越しに消えそうな笑い顔の稲田を認めた直後、引き金が引かれる。

 銃声がやけに遠くで聞こたように思う舜治であった。

残念ながら5連で途切れました

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