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霊異譚イチャつき絵巻  作者: ヘルニアス洋
学校の怪談編
9/101

08 土門由加里

「これが穴ですか……」


「そのようだ……周りに歪もなく、ぽっかり空いた感じだな」


 二人は警戒しながら近寄って行った。

 見据える先は晴れた空のもと、明るい空間に空く暗い穴だ。平面のように見え、目を凝らすと奥行きがあるようにも見える。


「やはり、妖気や邪気の類は感じられませんね」


「ああ、人の手による術だ……しかし……」


 そうなると犯人は青木ではない、ということになる。術者が魂を抜かれたような状態で術の維持ができるわけがない。しかし関わりはかなり深いと思われた。


「わからん……なら、この穴とやらを始末すれば出てくるか」


「もっと、こう、原因を探るとか、術そのものを調べるとか、ないんですか?」


「お千香……お前、何を言ってる?」


 舜治がやれやれといった顔を向けてくる。


「今まで、俺がそんなことをしたことがあったか?」


「……ええ、ありませんでした」


 二人が出会ってから一年と少し。それから霊障や事件に巻き込まれてきたこと数知れず。そのすべてを力押しで解決してきた。


「しかもな……」


 舜治はわざと溜めをつくり次の言葉へと――


「お前がそれを言うか!」


「たまには私から言わせてください!」


 真っ先に手が出るのはお千香の方。基本舜治が諌め役。最終的にゴリ押しするのはどちらか――


「まぁ、いい。あれを片付けよう」


 二人は問題の穴へと向き直る。

 聞き及んだところ、穴に手を入れようとして目玉に睨まれたという。

 舜治が覗きこんでも目玉はいなかった。それではと手を入れてみる。


「何もないな……」


「流石に不用心ですよ」


 己の強さに自信があるあまり無防備となりがち、いずれ痛い目を見ることになりそうである。


「……珠や比礼では祓えそうにないか」


 舜治は誤魔化すためにさも真面目に取り繕って言う。

 それでも実際に規模は小さいながらも術の力が強いと判断していた。


「では、一発ドカンと大技でいきますか」


「大技って、お前な……」


 お千香が楽しそうに言うのに対し、舜治は些か呆れ口調になる。

 だがその方が確実であり手早く済みそうだった。


「乗せられてやるよ。すめみまの――」


「あのぅ~お二人とも、大丈夫ですか?」


 舜治が何か唱えようとした矢先、遮ってきたのは教室に置いてきた土門だった。



「何故来たのですか。ここは今から危なくなります。すぐに離れてください」


「凄い音がしたので、気になったんですけど……ええっ! ドアが?」


 お千香がドアを蹴り破った轟音のことだ。誰か様子見に来ても不思議はない。まして土門はかなり近いところにいたのだ。

 土門は変形し打ち捨てられているドアと舜治たちの間で視線を行ったり来たりさせている。

 そこへお千香が再度言う。気勢を削がれた舜治は何も言えなくなっていた。


「早く行った方がいいですよ。これから術を壊しますので、巻き込まれることになるかもしれません」


 これ以上誰も来ないように階段下で見張っていて欲しいくらいだった。そこまで言おうとしたのだが、土門からは――


「私もここの教師として、最後を見届けたいと思います」


 面倒、二人は率直に思った。お千香は追加で邪魔だと。

 お千香を使って力尽くで追い出しすことも考えた。そしてそこまでしなくてもいいかとも。裏目に出るとは思いもせず。


「わかりました。先生はできるだけ下がっていてください。お千香、先生の前に立ってやってくれ」


「はい」


「ありがとうございます」


 出入口付近から土門は動かず、お千香は渋々その前へと歩き土門を庇う位置につく。


「待たせたな」


 向き直った舜治は穴に語りかける。勿論返事は期待していない。

 その代わり声を上げる者がいた。


「なっ!」


 お千香だった。

 何者かに羽交い絞めにされていた。小柄な土門はありえない。お千香と背丈が違い過ぎる。


「貴様は、青木!」


 舜治からは誰なのか見えていない。お千香が首をひねって僅かに見てとれた。

 お千香も背後の接近に気づけなかったことに驚くばかり。青木にはまるで気配が無かったのだ。その目は先ほど同様うつろなままだった。


「動かないでください。これほど綺麗な顔には私も傷を付けたくありません」


 土門がどこに隠していたのか千枚通しを突きつけながら言った。その顔は柔和なままで。


「どうやら先生、あんたが犯人か……」


――やっていいですよね?


――ちょっと待てって。


 目と目で通じ合う二人。

 呼び水を少し向けてやればペラペラしゃべりだすと舜治は踏んでいた。


「ええ、そうなりますね」


「妙だな。先生からは霊媒のかけらも感じなかったんだが?」


 そうそれがわからない。土門が術者本人ならどんなに隠していても、舜治やお千香が霊媒師としての気配を感じられないはずがなかった。完全にノーマークだったのだ。


「……そうでしょうね。私はその筋の家系に生まれながら、全く素養に恵まれませんでした。この六壬(りくじん)霊穴(れいけつ)も私が術をかけたわけではありません。私は占いひとつできませんから」


 土門の柔和な表情が哀しげに陰る。


「六壬……陰陽師か? 土門て聞かない名だな。お千香、知ってるか?」


「陰陽師と言われてみると……土御門(つちみかど)の分家にあったような?」


 二人の緊張感は薄い。


「正解よ。やっぱり只者じゃないですね。二人こそ何者ですか? これほどの霊能者が出てくるとは思いませんでした。しかもその若さ……陰陽師ではないようですが、ずいぶんと恵まれた家系なの?」


 土門の語りに羨望が滲む。


「家系ねぇ……親父は県庁の職員。お袋は専業主婦だ」


 舜治の出自はこれが本当。ただ母親の遠い血筋に曰くあり。


「あなたは?」


「乙女の秘密です」


 お千香はしれっと応える。ここで正体は明かさない。


「ふふ、面白いですね。それなら強さの秘密は例の呪具ですか?」


「これ?」


 舜治が橙色の珠を出す。

 土門の目が輝く。


「そう、それです! それを渡してもらいましょうか! それさえあれば、私も術を使うことができるはずです! 今度こそ、今度こそ……」


 土門のテンションが上がる。日頃の土門先生を知る生徒が見れば、きっと目を疑ったろう。


――もう我慢の限界です! 舜治以外の男に触られていることに耐えられません!


 羽交い絞めされたままのお千香が目で訴える。これ以上は無理か。


「そんなに欲しいなら、ほらっ――」


 舜治は手にある珠を高く放り投げた。土門のやや手前に落ちるように。

 土門が千枚通しを投げ出し、受け止めようと覚束なく歩み出す。

 タイミングを図って舜治が叫ぶ。


「お千香!」

次回「学校の階段編」最終話!

引き続きお付き合いお願いします。

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