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霊異譚イチャつき絵巻  作者: ヘルニアス洋
学校の怪談編
6/101

05 屋上決戦

 気を取り直した舜治は棟の東側を向き、右手を高く上げた。その手は人差し指と中指を揃えた剣印をつくる。

 気合一閃、右手が振り下ろされ――


「イーーッエーーッ!」


 パキンと何かが割れるような音が響いた。


「えっ?」


「呼び音?が消えた……?」


 衛藤姉妹があたりを見渡すように、鳴っていた呼び音を探す。


「おかしな気配も消えたようです」


 満足気に頷くお千香だが、目の端に青木が引っかかった。


「……ホンモノかよ」


 青木は不意に零れたようで慌てて口をつぐむ。そして周りに目を走らせ、誰にも聞かれなかったと安堵する。

 お千香には気付かずに。


「なんかよくわかんなかったけど、凄い、ね」


「お姉ちゃん、霊能者ってホントにいるんだね……」


 姉妹はよく似てる。


「東浦君、今の今まで疑ってたわ、私……」


 ようやく問題の屋上に行くことができる。



 はずだった。

 いや、出入りのドアまでは来られた。鍵が開かないのだ。


「呼び音も誘ってくれなかったし、嫌われたな……」


 観音開きの両方のノブを幾度か試すが無駄だった。


「私や他の子たちは、気づいたら屋上にいたのに……ホント不思議」


 またもや実体験とは違う瑞樹が姉の袖を掴んでいた。


――流石に教師の前で施設の破壊はできんよなぁ……お千香を外から……いや、人目に付くよな。


 舜治は青木に向き直って問う。


「先生、鍵持ってます?」


「いや、無いな……取って来ようか?」


「そうですね……学校として時間は大丈夫ですか?」


「あ~そうか、結構遅くなったなぁ。できれば引き上げて欲しいかな。明日も来てくれるなら、鍵も用意しよう」


「こういったことは早く解決したいところですが、無理強いするほどでもなさそうですから……今日のところは帰ります」


 ドア越しに脅威のようなものは何も感じなく、お千香からも反応はない。呼び音の関係と、穴に見え隠れしていた目玉が気になるところではるのだが。

 そうまとまったところへ最年少から未練たっぷりの声が上がる。


「そんなぁ~あと少しなのに……」


「瑞樹、明日も藤堂さんに会えるよ」


「あっ、そうか、そうだよね」


 姉に容易く言いくるめられる妹に男二人が苦笑していた。お千香の表情は髪に隠れて定かではなかったが関心は薄そうである。



 青木に玄関で見送られ四人は高等部を後にする。

 お千香はさり気なく舜治に腕を絡めていた。そして姉妹に聞かれないようにそっと耳打ちする。嬉しそうなのはいつものこと。


「お気づきとは思いますが、あの教諭……警戒すべきかと」


「ああ、そうだな」


「本当に付き合ってるんですね……」


 一目惚れしたお姉様は売約済み。瑞樹はハンカチを噛みしめる勢いで二人を見ていた。

 いちゃつくカップルにしか見えないからだ。


「それにしても明日か……適当に行ってもいいもんかね?」


 これは舜治が周りに聞こえるように言う。

 反応したのは瑞樹だった。我が意を得たりとばかりに表情が明るくなる。スマホを取り出しながら――


「千香子お姉様! 私から連絡します! 是非携帯の番号を交換しましょう! で、できればメッセも!」


 しかし報われない。


「すみません。私、携帯電話を持っておりません」


「えっ? それ、ほんと?」


 一瞬して絶望の顔をした妹を余所に、姉のほうから疑問が上がる。


「はい」


「だって、二人は付き合ってるんだよね。東浦君は持ってたはず。連絡したい時どうするの?」


「まぁ、四六時中一緒にいるからな」


「ええ、必要ありませんね」


 出来上がる二人だけの甘い空間。


「四六時中? 一緒に住んでる? それって、同棲……」


 絶望から回復しかけた瑞樹が自分から更に転落していく。


「はい、ひと時も離れたくありませんから」


 それが何か?と言わんばかりのお千香に舜治は苦笑しか出ない。


「諦めなさい、瑞樹」


「だって、お姉ちゃん……やっと見つけた理想のお姉様なのに」


「悪かったわね、理想のお姉様じゃなくて」


 結局、姉妹を経由して舜治に連絡が行くことになった。

 翌日には解決されると足取り軽く帰路につく。


 しかし騒動は予期せぬ形で起きることとなる。


■ ■


「青木先生、今のは?」


 玄関で見送り終わった青木に話しかける女がいた。青木より幾分年上に見える。


「土門先生。いや、何、例の三階に鳴る奇妙な音の噂ですよ。妹を心配した大学の姉が、霊能者を連れて調べに来たそうです」


「霊能者、ですか?」


 土門という女教諭が顎に手をやり、しばし考える。

 柔和な表情と態度で生徒には人気の国語教師だった。


「部外者を安易に入れるのはあまり賛同できませんが」


「まぁ、そうなんですが、みんな隣の学生らしく、無下にも、ねえ」


「そうだったんですか。それよりも、霊能者というのは本当ですか? そういった詐欺師の話はよく聞きます」


 青木よりかなり背が低いため、ついと見上げる格好の土門が心配気に言う。

 そんな先輩教師を可愛いなぁと思ってしまった青木だったが、答える時は極端に落ち着いた声と態度になっていた。いつの間にか直立不動の姿勢となって。


「はい、私も最初は胡散臭いと思いましたが、確かに見ました。男のほうが、三階で鳴っていた音を一瞬で消してしまいました。その前に音に連れて行かれることも無く、屋上に入ることはできませんでした」


「そうですか……」


「長い髪の女のほうも只者ではないと思います。そして、明日また来ると言っていました。その時、屋上の鍵を渡すことになっています」


「わかりました……もういいですよ」


 土門はそう言って去っていく。

 青木はしばらく直立不動のままだった。

下書きの残弾が減ってくると不安になります

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