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霊異譚イチャつき絵巻  作者: ヘルニアス洋
凍てつく殺意編
42/101

01 長田無惨

新編開始いたします

「なかなかやりますね……流石は物部の霊媒師と言ったところでしょうか」


 肉厚の短剣を構える男が告げる。口の端を上げ、明らかに楽しんでいるようだが、目だけは笑っていない。


「そりゃどうも。どうせ褒めてくれるならもうちょっと優しくしてほしいねぇ」


 かたや痩せた男が五寸釘より長い鉄針を投げようかと構える。おどけた口ぶりに反し、実は余裕がない。左腕からは出血し、感覚も薄い。


 人知れない山裾において、二人の男が対峙している。それもお互いの命を奪うために。

 短剣男は無傷であり、痩身男はかなりの血を流していた。


「そうは参りません。そもそもあなたから邪魔をしてきたんですよ。わたくしは標的さえ仕留められればいいんですから」


「こっちも仕事なんでね」


 精一杯取り繕った顔をして嘯く。どこかに取り付く島はないものかと探りながら。


「わたくしも同様です。お互い因果な商売をしているようですね。ここは割り切っていきましょう」


「そうかい!」


 痩身男が鉄針を投げる。投擲された二本は短剣の男には当たらず、明後日の方へ飛んでいく。


「もはや狙いもつけられませんか……ではトドメと参りましょう!」


 短剣を地面に突き刺すと周辺から一メートルは超す大型の蜘蛛が三匹這い出てきた。しかも顔の部分が鬼のそれだ。

 優勢に立ち回っていながら、こんな手を残していたとは。

 それは牛鬼(うしおに)と呼ばれ、術者の意のままに使役される邪鬼。一匹では大したことはないが、数が揃ってくれば苦戦するだろう難敵だ。


 そのうちの一匹が飛びかかってくる。


「くそっ」


 手にある鉄針を蜘蛛の鬼面に突き立てる。抜いている暇はない。即座に一歩二歩さがり追撃に備える。

 しかし間に合わず。

 一匹がのしかかってくる。襲い来る牙に右腕を噛ませ、袖内に仕込まれた鉄針が嫌な音を立てる。

 力の入り切らない左手を懸命に動かし、残りの鉄針を宙に放る。


 既に詰んでいることを確信しながらも短剣男は決して近づかない。残る一匹に指令を送る。

 この用心深さで今まで生き延びてきた自負がある。強さだけではだめなのだ、と。


「無駄ですよ。さあ、死になさい」


「やなこった」


 痩せた男の目は諦めていない。細い目を見開き起死回生の一手を打つ。


現出座(あれいでませ)五柱(いつはしら)国津(くにつ)神!」


「ぐぎゃあぁーー!」


 短剣男から上がる悲鳴。その身が五色の光の渦に飲み込まれていた。体に傷こそつかないが、意識を刈り取られそうな激痛が襲う。

 牛鬼もひっくり返り痙攣したかと思うと、ぼろぼろと砂のように崩れた。


「何をしやがったぁ!」


「口調が変わってるよ。結構なダメージいったでしょ」


 周囲には鉄針が光る。無闇に投げていたのではない。五本の結界針を使い内部の敵を討つ物部の秘術、痩身男の奥の手――五元之神呪(ごげんのしんじゅ)だ。相手に説明はしてやらない。


「ぐはっ! ……貴様ぁ」


 短剣男が血を吐き出し、苦痛に顔を歪める。


「ははっ、その顔が見たかったよ」


 痩身男が挑発する。満身創痍のくせに人差し指を立てて。


「ぐぅ……これ以上は……次はないと思え!」


 ここで無理をする必要はない。痩身男を殺すことが目的ではないからだ。それにまだ隠し玉があるかもしれない。

 お約束のような捨て台詞を残し、短剣男は身を翻すと消えていった。


「次は会いたくないっての……もう立てないよ」


 痩身男は大の字になり、天を仰いだ。

 今の強さを得てからこれほどの強敵に遭ったことはなかった。次に相見えても勝てるかどうか。自分と同等レベルがもう一人ほしいところ。


「あれが、山の民か……」


 血が流れていくのを感じながら、長田真一郎は意識が薄れるに任せた。


■ ■


「議員の護衛に付いていた長田様の消息が途絶えました。外敵は一時的に排除できたようでありますが、いずれも生死不明です」


「なんと……奴ほどの手練が。かなりの敵であるということか」


 物部一門の本宗家、樹齢の予測もつかないような巨木に囲まれた総領の館。その一室にて総領は報告を受けていた。

 総領は老境にかかってはいたが、眼光鋭く座る姿勢も乱れていない。頭髪や眉が白いことだけがその気配を伝える。

 報告する側も初老の紳士然としており、傅く姿にも隙がない。長年この総領に仕えてきた執事だ。


「はい。未確認情報ながら、敵方がセブリの者を雇ったとの報がございます。只今精査を行っておりますが、その線が濃厚かと思われます」


 執事は表情を変えることなく話すが、総領の老爺は視線を外して嘆息する。

 この執事が推測の物言いをしながらも外したことはない。


「セブリか……それは厄介じゃな。長田を倒したとなれば、相応の術も使うか……誰ぞ早急に後任を手配せい」


「残念ながら、長田様以上となると数えるまでもおりません……皆、既に別の任に着かれております」


「むう……あ奴ばかり、ちと便利に使い過ぎたか。新家(にいけ)の娘、十千(とち)はどうじゃ?」


 通常の護衛者だけでは荷が勝ちすぎるのは明白。護衛対象を確実に護るには――


「新家の麒麟児と言われておりますれば、長田様には未だ遠く及ばず。要人警護の経験もなく、対人の霊的戦闘に不安がございます」


 一門の内情について、この執事より精通する者はいない。

 一呼吸おいて執事はとっておきを推挙する。


「ここに至ってはフツシの若様しかおらぬかと存じます。確かに若様も警護の経験はございませんが、それにも馴れていただきませんと」


 総領はあーあとばかりに天を仰ぐ。

 目に浮かぶのは最強の巫覡。一門で最強なのではない――この国において最強を誇る、あの凡庸にしか見えない若者を。

 ただただやる気のないあの若者を。

 なんでも最近は見目麗しい女妖魔を囲ってよろしくやっているらしいが。


「……またゴネるじゃろうて。しかし他にあるまい。書状は儂が認める。柳よ、手配は任す」


「御意」


 執事の柳が辞去し、一人残された総領は文机を引き寄せ、筆を取った。


 一門の巫覡たちのレベルを底上げしなくてはならないと考える。このままでは不条理に対応できなくなってくるだろう。

 平成の世となっても魑魅魍魎はいなくならない。人知れず害をなす。そして依然存在する呪術などを生業とする裏の者たちも。

 我ら物部一門が必要とされない時代が来るのがいつになるやら。いや、来ないのかもしれない。


「山の民セブリ……今もその力衰えずか」


 幾度か(まみ)えたことのあるその姿を思い出す。

 絶えず厚みのある短剣を携える屈強な者たちだった。闇に紛れた物部とは境遇が似ていたためか、記憶にある中で衝突したことはなかったはず。弱き者へ手を伸ばさずにはいられない気質にも好感が持てた。

 おそらく一族総出における敵対行動ではないだろう。フリーランスで動いている者がいるのではないか。この時代なら尚更に。


「生身の人間を討てるかのぅ。いや、お主には越えてもらわなくてはならんのじゃ……舜治よ」

初めてあの二人が出て来ない話は如何だったでしょうか?

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