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霊異譚イチャつき絵巻  作者: ヘルニアス洋
嘆きの君編
41/101

04 地下室には縁がある

神通(じんつう)の加護奉る」


 手が繋がったままの妖姫お千香の動きが止まり。


神妙(じんみょう)の加護奉る」


 空いてる手で幽霊を掴み引き剥がす。剥がされた幽霊佐和子はピクリとも動けず。


「お千香、縛を解いたらイスに座る。いいね? 暴れたら怒るよ。佐和子さん……だっけ、おとなしくしないと否応なく除霊するから」


 そう言って舜治は両手を放した。やれやれという顔で言うのだが、そもそも早くに対応していれば騒動にはならなかったはずである。

 両名は言われた通りにするしかなかった。


 項垂れるお千香はその綺麗な髪をくしゃくしゃに撫でられた。


「ヤキモチも嬉しいけど、程々にしてくれ。俺がお前以外に靡く訳ないだろ」


「はい……ごめんなさい」


 幽霊の言葉がわからない面々は途方に暮れる。リアクションのとりようがないのだ。何やら三角関係に発展しそうな気配は読めた。霊能者の男が何やら術を使ったらしいのもわかった。

 治まった途端にいちゃつくのはやめて欲しかった。


――わたし、どうすりゃいいの?


 幽霊佐和子の言は、皆の統一見解を代弁していた。



「あの……東浦君、いつまでそうしているんですか?」


 さすが物部の霊媒師と感心していた土門だったが、いいかげんにしろと口から出かかった。何とかやんわりとした表現に留める。


「ん? ああ、すみません。あまりにもお千香が可愛いもんで」


 しれっと答える舜治に全員がイラッとしたのは当たり前と言えよう。時と場所を選べ。


「さっさと、その子――佐和子に聞いとくれ……佐和子? あんた、二十一年前にここに住んでた、今中佐和子かい?」


 おっかさんが思い出す。年数は具体的だ。


――そうだよ~。おっかさんも変わんないね~。


 佐和子がブイサインで返す。当然言葉は通じない。


「そうかい。佐和子だったかい」


 懐かしむように幽霊に近づく。しかし、少なくとも二十一年前から寮母をしていることが判明した。一体何歳なのだろうか。


「あんた、幽霊ってことは死んじまったのか……あたしより先に逝くんじゃないよ、バカタレ!」


――ごめん、おっかさん。


 謝っていることは伝わる。


「それで、あたしらに言いたいことがあるんだろ?」


――そうそう。


 言って佐和子は舜治に寄っていく。お千香の顔色をうかがいながら。


「ほら、通訳、通訳」


 新たな職業、霊界通訳師が誕生した。



――もうすぐ、寮の建物が崩れるの!


「はぁあ?」


 ざわつく食堂内。端から見てると一人で空気と会話してる男が急に素っ頓狂な声を上げる図である。


「崩れるって、どういうことだ? ちゃんと説明しろって」


――ここの地下になんか広い空間があるのよ。


 身振り手振りを混じえた佐和子の説明によると――

 もともと地下に空洞があるところにこの建物が建てられたらしく、築年数の古さも相まって、基礎が崩れそうであると。そのきっかけは空洞の一部が崩落したことによるものだという。

 懐かしさで寮の周辺を浮遊していた時、そのことに気がついた。おっかさんには世話になったし、かわいい後輩が被害に遭うことはなんとしても防ぎたかった。

 住人に姿を見せることはできたが、話しをすることができない。どうにか伝える術はないものかと、頻繁に出没しているところだった。


「――ということみたいです」


「佐和子……あんたって娘は」


 おっかさんが目頭を抑えている。寮生たちも潤んだ目をしていた。土門に至っては人目も憚らず大泣きだ。

 お千香だけがどん引きの表情。舜治に囁く。


「今の話に泣ける要素ってありましたか?」


「そこは空気読んどけ」


 かなり人間くさい妖姫だが、人の機微には些か疎かったか。



――こっち、こっち。ここの下から行けるよ。


 幽霊の手招きに応じ、行き着いたのは再び浴室前。佐和子の指し示すのは廊下の板張り。この下に地下空洞への入り口があるという。


「どうやって行けと?」


――さあ?


「使えない幽霊ですね」


 お千香の冷たいもの言いに、佐和子がむくれる。


「どうします?」


「その空洞とやらを確かめないことにはねぇ……確かに最近、あちこちで軋む音が聞こえてきてたよ……古いからとばかり思ってたけど……」


 問われたおっかさんは思案するが、打開策は浮かばない。


「破りますか?」


 お千香からの提案。いつも通りの物騒な。とりあえずスルーする。


「業者に頼んだほうがいいと思いますよ」


「でも佐和子が言うなら、急いだほうがいいだろうし……やれるのかい?」


「やってもいいのなら……お千香」


 人型重機がいとも簡単に板張りを剥がす。

 まさか見目麗しい女性が、しかも素手でやってのけるとはおもわず、一同目を剥いた。


――バケモンだ……。


 幽霊にそう言われるとは。お千香は睨みつけるが、舜治に怒られるから作業を続ける。

 剥がした先には正方形の鉄板が蓋のようになっているのが見える。一辺一メートルくらいか。その重たそうな蓋も缶詰めを開けるようにあっさりと引き開ける。


 金属の鳴く音がした後に覗くのは縦穴だった。そう深くはなさそうで、申し訳程度のハシゴが備えられている。

 降りようとするお千香を舜治が止めた。


「それは男の役だろ。俺が行くさ」


 力仕事をさせておいて言うことか。


「危険です。何があるかわかりません。崩落したと言うではありませんか!」


「そん時は助けてくれ。それにお前が汚れるのが嫌なんだよ」


 そう言い捨て、照れ隠すように降りていった。

 そしてすぐ戻ってくる。


「……明かりがいる」



 焔魔の火の玉を出すわけにもいかず、おっかさんが持ってきてくれた懐中電灯を点ける。電球型はやはり暗い。

 一通り照らすと、なるほど中は広い。教室二部屋分はあるだろう。支えの柱がいくつか見える。物置とは思えなかった。


「なんの部屋だ?」


――不思議だねー?


「付いてきたのか」


 いつの間にか佐和子が横にいた。上でお千香がやきもきしてることだろう。


――うん。言い出しっぺだからね。あ、あっちに何かあるよー。


 先走る佐和子に引かれ、崩れかけている天井に注意して奥に進む。そこには積み上げられている座布団らしき物があった。

 手にとってみると、ひとつの推測が立つ。


――これ何?


「舜治ー! 大丈夫ですかー!」


 気が気でないお千香の声だ。


「大丈夫だー! 今、戻るー!」


 その声を引き金にして、柱の一本に亀裂が走った。



「無事で良かったです」


 心からの安堵を見せるのはお千香。何故そこまで心配するのかと周りが訝るほど。

 舜治はお千香に笑って見せた後、手にある物をおっかさんに渡した。


「これは?」


「頭巾ですね。たくさんありました」


「ってことは、地下の空洞は……」


「大戦期の防空壕だと思いますよ。あちこち崩れかかってました。上物が倒壊するのも時間の問題でしょう」


「防空壕って、何?」


 現代の女子高生たちにはピンとこなかった。防空頭巾を被ってはしゃぐ始末。


「学校に報告しなきゃならないね。佐和子……あんたのお陰で、忙しくなりそうだよ。あっはっはっ!」


 おっかさんは腰に手を当てて、豪快に笑うのだった。


――へへー、良かった。


■ ■


 学校側の対応は早かった。

 寮は取り壊しが決定し、新たに借り上げたアパートに寮生たちは引っ越していく。ただし下宿屋ではないため、食事などしばらくは不便を被るだろう。


 二日後、舜治とお千香は立ち入り禁止となった寮の前でおっかさんと鉢合わせていた。


「あたしも無職になったよ……」


 おっかさんの口調は寂しそうだった。二十年、いやおそらくそれをかなり上回る年数を過ごしてきたのだから、そうであろう。

 若い舜治には想像もつかない。傍らの長い髪が頻りと頷いているのが気になるところだ。


「これからどうするんですか?」


「さて、どうしようかね……あの子らと同じアパートに一部屋抑えてもらってるけど、働き先が決まらんくてね」


「そうですか。ここを立て直したりは?」


「なさそうだよ。今いた子は三年生だけ。卒業したら取り止めることも検討してたらしいのさ」


――えー、そんなの寂しー。


「何故いるのです?」


 佐和子を最も警戒しているお千香が舜治との間に入る。


――そろそろ成仏しようかと思って、挨拶にね。ここの心配もなくなったし。


「佐和子、なんだって?」


 会話のできないおっかさんが尋ねる。


「お別れに出てきたようですよ」


「そうかい……ありがとう佐和子。あんたのお陰で誰も怪我しなくて済んだよ」


――えへへー。


 無理して笑うおっかさんに幽霊が纏わりつくよう飛び回る。惜しむように、慰めるように。


――それじゃあ、もう往くね。ばいばいおっかさん。ありがとね、舜君。


「ああ」


 三人が見上げる中、明るい幽霊佐和子が上空へ昇っていく。


「あの世でも元気にやんな」


 おっかさんの言葉は届いただろうか。手を振るが佐和子の姿は見えなくなっていた。


「往ったね……とにかく明るい賑やかな娘だったよ。若くして死んじまうとはね」


 舜治はかける言葉を持たなかった。おっかさんも望んではいないように思える。


「あんたら二人も助かったよ」


「いえ、お役に立てて何よりです」


 その後、二言三言交わし別れた。



「怨念を拗らせる者もいれば、霊となっても誰かのためになろうとする者もいるんですね」


「そうだな……なにせ元は人間だ。いい奴もいれば、そうでない奴もいるってことさ」


 スーパーの買い物袋を下げた二人は家路へ向かう。今日はいい魚が買えたとお千香が喜んでいた。


「俺だって聖人君子じゃあないしな」


「そうですね……体は動かしたがらないですし、すぐ学校も休もうとします」


「そういう意味で言ったんじゃない」


「ふふ、知ってます。でもいいじゃありませんか、聖人じゃなくても。私と一緒に笑ったり怒ったりしてくれます」


「好きで一緒にいるんだ。感情も含めて、いろいろ共有しないとつまんないだろ」


「はい! そうですよね! 早く帰ってご飯にしましょう。そして褥を共有しなければなりません」


「そんなことを大声で言うな。はぁ~っ。お前、俺を寝かせる気ないだろ」

今編終わりとなります。

お付き合いありがとうございました

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