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霊異譚イチャつき絵巻  作者: ヘルニアス洋
嘆きの君編
38/101

01 噂の真相

ほよよんスタートです。

「聞いた? 女子寮の噂」


「女子寮? あのボロっちいやつ?」


「あ、わたし聞いたよ。部活の先輩に」


「何なに?」


 とある高等部の昼休み。仲の良い三人娘がお弁当を中心に据えながらも、食べることは後回しと噂話に花を咲かせる。


「……出るんだって」


「何が?」


「決まってるしょ……幽霊」


「はぁ?」


「こないだ三年のとこで一騒ぎあったばっかじゃん」


「だから寮に出るんだって。あれとは別!」


 得意げに話し始めたところを折られ、噂を知る少女は鼻白む。


「わたしの先輩あそこに住んでるんだから、間違いないって」


「ふ〜ん。それでどんなの? やっぱり怖い系?」


「それがね……」


 茶々が入っても結局は話したくて仕方ない少女が語る噂は――


■ ■


 ピンクオーラの固有結界を張りまくるバカップルは相変わらずだった。今日の講義も終わり、帰るか寄り道するかで盛り上がる。


「ドラッグストアに行きましょう。あそこはビールが安いです。もうストックありませんし」


「家と反対方向じゃねぇか……」


「急いで帰る必要もありません。お散歩がてらにちょうどいいですよ」


「うーん……」


 基本的に体を動かしたがらない舜治は遠回りを想像して渋る。腕に絡みつくお千香は形のいい眉を寄せる。


「舜治はもっと体を動かさないといけません」


「……わかったよ」


 妖姫の説得?説教?に応じるしかなかった。凄む美人がおっかないとは言えずに。

 正門に差し掛かったところにいた小柄なスーツ姿の女性に気付かなかったことはそのせいだったかもしれない。


「あの……」


 弱々しくかけられる声では尚更。


「あの……東浦君!」


 今度は意を決して大きな声。周りも目を向ける。

 しかし舜治を呼び止める女の声に真っ先に反応するのはお千香。


「私の舜治に何か!」


「ひっ」


 やはり美人が凄むとおっかない。声をかけた女性は後退る。日々生きていて浴びせられる威圧感ではない。


「あれ? あなたは土門……先生でしたか?」


 小柄な女性を見て舜治は記憶の糸を辿ったところ、思い出すは隣の高等部で起きた一件。と言うより、この女性が起こした一件。高等部教諭の土門由加里だった。


「……はい。東浦君、あなたに相談したいことがあって、待っていました」


「相談ですか? お断りします」


 舜治を霊媒と知る土門から出た言葉が相談――厄介事の匂いしかしない。話を聞けば知らん顔はできなくなるに決まっている。ならば最初から聞かなければいい。


「はい?」


 よもやこの段階で断られるとは思わなかった土門は思考が停止する。


「では、さようなら」


 軽く会釈を添えて立ち去ろうとする。当然のようにお千香も追随。

 そこへ割って入ってくる活きのいいセーラー服がいた。


「ちょっと待ちなさいよ! あ、千香子お姉様、お久しぶりです!」


「まためんどくさいのが……」


「めんどくさいって何!」


 ため息混じりで見やると、女子高生にも見覚えが――土門の件で知り合った衛藤瑞樹だった。


「なんでお前もいるんだ、衛藤妹」


「私はお姉ちゃんに用があるのよ」


 そう言いつつ瑞樹はお千香ににじり寄っていく。明らかに目的が変わっている。

 お千香は愛する男を盾にして、その接触を懸命に拒む。


「あの……」


 やっと再起動した土門に目をくれる者はいなかった。



 結局は瑞樹の剣幕に圧され、土門の相談を聞くことに。学内カフェでは目立つからと、小公園に移動した。


「姉に用事があるんじゃなかったのか?」


「いいんですぅ。家に帰れば嫌でも会うんだから」


 お千香を端に座らせてやれば良かったのだが、ベンチには舜治、お千香、瑞樹の順で並んでいた。そして三人がひっつくおかしな絵面になっている。


「衛藤妹、先生立たせていいのかよ」


「じゃあ、あなたが立てばいいと思います!」


 皮肉の類は通じない。


「いえ、私はこのままで構いません」


 土門だけがまともに見える。


「あー土門先生、ご用件をどうぞ……」


 舜治は諸々諦め、本題を促すのだった。


「先ずは……その節は大変ご迷惑をお掛けしました。お詫びとお礼を申し上げます。おかげで教師を勤め上げる気概を持つことができました」


「それは何よりです。鼻の頭もキレイになったようで」


 深々と頭を下げていた土門は、起こした際に鼻を抑えてはにかんでいた。

 経緯を知らない瑞樹がきょとんとする。


「それで?」


「はい。高等部には地方出身者のために女子寮があるんですが、最近そこで幽霊騒ぎが起こりまして……」


 それだけ聞けば十分。


「俺に除霊をしろと?」


「はい。是非ともお願いしたく」


「……実家に頼まれては?」


「その……いろいろありまして、疎遠になっているものですから……」


 そのいろいろを拗らせて何時ぞやの事件に繋がる。

 

「一介の学生に頼むことではないでしょうに」


 流石に言いづらいことを伏し目で語る土門に、舜治はすげない物言い。

 案の定そこへ噛みつく娘が。


「それぐらいやってくれてもいいじゃない、先生がこんなに頼んでるのに、ケチ! ちゃちゃっとできるくムギュ!」


 舜治への暴言を一切許さない存在がここにいる。瑞樹は皆までしゃべる前に口を塞がれていた。更に絶対零度の視線と言葉を浴びる。


「衛藤瑞樹さん……それ以上はいけません……よ」


 かつて姉が言っていたことを思い出す――藤堂さんの前で彼のことを悪く言ってはダメよ……武闘派だから。


――このことだったんだ……。


 最近高等部にも流れてきた噂にある――大学に魔女とあだ名される凄い美女がいる。しかも鉄槌と呼ばれる猛威を振るうらしい、と。

 何故鉄槌が振るわれるのかまでは伝わっていない。


 瑞樹がコクコクと頷くのを見て、お千香は柔らかく微笑んで手を放す。しかも放す寸前に骨まで伝わる力を込める警告付きで。今まで一撃KOされてきた面々からみたらかなり優しい処置だ。

 すっかりおとなしくなった瑞樹はこの話が終わるまで口を開くことがなかった。


――だから、話が進まんて。


 当事者のくせに呆れかえっている舜治は土門に意識を戻す。見るとその膝が震えていた。

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