表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊異譚イチャつき絵巻  作者: ヘルニアス洋
限界集落の怪編
18/101

08 戦慄!ごりょうさん

 飛び出して宙に浮かぶそれは焼け焦げた石だった。(すす)塗れで元の色などはわからない。爆発の衝撃か、所々に亀裂が入っている。

 先ほどの爆発で有耶無耶になっていたが、石が露見してから瘴気が濃くなっていた。祠の注連縄にも抑える効果があったようだ。

 亀裂は間もなく満遍なく広がり、乾いた音を立て石は爆散した。


「ご登場か。噂のごりょうさん」


「空気が重くなっていきます」


「さて、何が出てくるやら」


 抱き合ったまま巫覡と飛縁魔が光景を見上げる中、石の中にいたであろう何かが白い(もや)となってそこに存在していた。

 夕闇迫りながらもはっきりと視認できる。あれだけ黒い瘴気を放っていたのに中身は白い。


 靄は次第に人の顔を形づくる。


 声なき咆哮、苦悶の表情。


 人相から性別はわからない。


 やがて眼下に一組の男女を見る。


 表情が苦悶から憤怒へと変わる。


 見る者全てを絶望の淵へ落とすかのごとく憎悪の篭った(まなこ)


「怨念の塊です。(おぞ)ましい」


 舜治を抱くお千香の腕に力が入る。さすがの妖姫も逃げ出したい思いで一杯だ。

 舜治は平常、涼しい顔でいる。


「怨霊ね……だから、ごりょうさんか……」


「わかるのですか?」


「誰なのか、まではわからんよ」


 ごりょうさんは御霊(ごりょう)さん。御霊は怨霊。至ってシンプルな図式だった。

 強弱はあれど、怨み辛みの思いを拗らせた成れの果てなど珍しいものではない。勿体ぶってた割にはある意味拍子抜けの感は否めない。

 ならば祓うまで。


「お千香、火だ。撃て!」


 焔魔(えんま)はノータイム。小ぶりな火球が七つ、二人の周りに発現し怨霊目がけて放たれる。

 そして全弾突き抜け、素通りしていった。

 お千香は火球を操り幾度と攻撃を仕掛けるも徒労に終わる。


「効かないか。楽に終わりたかったのにな」


「やはり霊体ですね」


 自分の炎が効き目なくともお千香はあまり気にしていなかった。元々物理的に通じないモノには通じない類の能力だったから。


 それでも怨霊は攻撃されたことがわかったようで、憤怒の相をことさら強めていく。

 後ろの鳥居周辺では悲鳴の合唱が始まっていた。

 それが怨霊の目に留まる。

 人面靄から触手のように靄が伸びていく。その先は村人溜まり。靄触手が村人をひとりふたりと絡めとる。人の体が重力を無視して簡単に持ち上がっていった。

 見逃された者達は絶望の表情で見上げることしかできない。


「うわぁ~!」


「お助けください、ごりょうさぁん!」


 引き寄せられ手足をバタつかせる老人二人を、怨霊が口を開けて飲み込もうとしていた。履物が放り出され放物線を描く。


「む、まずい!」


 舜治は右手に剣印をつくり雄詰(をころび)禊祓(みそぎはら)えを()げる。


「イーーッエーーッ!」


 虚空の剣が振り下ろされ、見えない剣圧が飛ぶ。

 ギィンと金属のギア鳴りのような音が鳴り、怨霊の顔前で火花が散る。


「弾いた!」


「そんな……」


 うまく力を(ふる)えなかった頃の舜治には経験あったことだが、お千香は初めて目にする驚愕の結果。

 邪霊魔障を切り裂く物部神道必滅の祓えの術だ。まして使い手は最強巫覡。一門の人間が見ていたのならば卒倒するほどの現実。

 敵は強い。


 老人二人が飲み込まれてしまう。靄の中に人影は見えない。まるで消化されてしまったかのようだ。それが正解なのか怨霊が放出する瘴気のプレッシャーがどんどん強まってくる。

 怨霊は舜治とお千香を睨む。

 今度こそ靄触手が二人を襲う番。

 お千香は淀みないバックステップで、舜治はややもたつきながら下がる。二人のいた場所に土煙が舞う。

 こちらの物理的な攻撃が通じないのに、逆は有りとは。


「生贄で強くなるとか、反則だろ」


 そう言いながらも舜治の頬は上がっていく。ここに来て闘争心が高まっているのか。もうお互い見逃すことにはなりそうもない。


「牽制します。その間に」


 舜治と一緒にいること、睦み合うこと、役に立つことを無常の喜びとする女化生が前に出る。


「お千香、これを持ってけ。道返(ちかへし)だ。無茶はするなよ。玉の効果も絶対ではないからな」


 舜治がどこからか出した橙色の珠玉を握らせる。


「はい、ありがとうございます。ではいきます」


 言うが早いか、お千香は地を蹴り宙に踊りだす。

 怨霊の顔前に飛び込んだかと思えば離れ、靄触手を誘うよう飛び回る。そうなると怨霊は飛縁魔しか目に入らない。

 人面靄は苛立ちから何度も表情を歪ませ吠えた。音のない咆哮はその都度お千香の動きを鈍らせ、躱しきれない触手を掠らせる。

 しかし手にある珠玉が光る度に触れた触手が霧散した。

 表情に焦りの色はなく、これだけのドッグファイトをしてもスカートは翻らない。


 そこまで見納め舜治はお千香から目を離す。

 両手を上げ深く息を吸い、その吸気が臍の辺りで渦巻くイメージを強くする。

 黒い瞳が僅かに銀色の光を放つ。


生玉(いくたま)! 死辺玉(まかるかへしのたま)!」


 舜治の右手には緋色の勾玉、左手には漆黒の勾玉が顕れる。いずれも手中に収まり握りこめる大きさ。

 再び雄詰の構えをとる。目標は勿論怨霊。急がなければお千香もいつまで()つかわからない。

 果敢に舞うお千香の離れるタイミングに合わせ――


「イーーッエーーッ!」


 パキンと乾いた音が鳴る。


「グギィアァァー―!」


 怨霊が初めて耳に届く声を上げた。とても人間では出せない音声(おんじょう)の悲鳴。

 気吹(いぶき)により高められた神気。二つの勾玉による底上げ。先ほどとは比べ物にならない威力で人面靄を切り裂いたのだ。


「これは効いたろうが!」


「やりましたね!」


 してやったり顔の舜治の元へお千香が舞い降りる。微笑む様は天女の如し。


「だが、一撃ではいかんかったか……」


「えっ?」


 靄が再び人の顔に戻っていく。


「うぬら……何者じゃ」


 だみ声が耳にざらつくよう。また表情が無くなったことで不気味さに拍車がかかる。

 これ以上付き合う気になれないと、舜治が柄にもなく激する。


「問答する気は無い! もう出し惜しみはしないからな! 死んだヤツがいつまでも生きてる人間に迷惑かけてんじゃねぇぞ!」


 人差し指を突きつけた。

次話「限界集落の怪編」最終話。

楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ