猫と墓
お豪ちゃんに笄を渡した後、オレと八郎とエリンギは上様に会う事になった。
「お主ら! よくやった! これで堺は平和になった!」
「「「……」」」
「どうした? お主らが、あの吉利支丹殺しを倒したのじゃろう?」
「「⁉」」
何でそうなっているの?
「お言葉ですが、父上! あれは如月が——」
「余は二人は捕まえる事に成功したが、吉利支丹殺しは天災で死んだと聞いておる」
「え……」
何で石治部さんや如清さんは、オレたちが捕まえた事にしたのだろう?
その後、オレたちは石治部さんの屋敷に行き真相を確かめる事にした。
「何だ? 宇喜多殿と馬鹿猫と猫、私に話とは?」
「何故、吉利支丹殺しは天災で死んだ事になっている⁉」
「あれは……如清が、二人が捕まえたが天災で勝手に死んだと聞いた」
「「えっ⁉」」
「骸を見たが、どう見ても天災と言うより、誰かが殺したと考えた方がいいのだが……如清は天災で死んだの一点張りだ。それ以上は言わなかった。……私は仕方なく、この形で報告する羽目になった」
「如清さんが、そうしたのか」
「何故、そうしたのだ?」
「さあ?」
そして日が経ち、
「ん? あれは……」
弥九郎さんだ。どこかに行っているみたいだけど、
「後を付けてみよう」
「あんな南蛮かぶれの後を付けるのかよ。女なら歓迎だが」
「あのな!」
後を付けると、墓地に来てしまった。
たくさんあるお墓の中の二つの前で、お墓参りをしている。
けど、その墓を見ると、名前がない。
「弥九郎さん」
「猫さんか。何の用や?」
「そのお墓は……」
「この墓は、片一方は儂が殺した娘の墓、もう片一方は如月が殺した小僧の墓や」
「あの、ななしの……」
「せや、確かにあの時は、家族や大切な者を奪った者に悲しみを与える為に殺した。が、儂が殺した事で、また多くの者が死んでしもた。そして、残された者も死んだ。この二人は多くの人の命を奪いましたが、その元凶は儂や。結果的には、儂が二人や吉利支丹の命を奪ったんや」
「……」
「……誰も、この事は責めません。人は死ぬのが、当たり前やから」
「…………」
「猫さん…………また、会いましょや」
弥九郎さんは去って行き、残ったのは、オレとエリンギだけになった。
「……オレも」
墓参りをして去った。
更に数日後、
「猫丸。本日、堺に伴天連が来るぞ」
「ああ、あの日か」
前、如清さんが言っていたヤツか。
「私は行って来る。猫丸とエリンギは留守番をしていてくれ」
「ああ、わかった」
「留守番か」
オレとエリンギが部屋でゲームをしていると、ふと思って、
「予定通りになったんだな」
「予定通りにならない方がよかったのかもしれないな」
「え?」
部屋に侍女が来て、
「猫丸に客人でございます」
「オレに?」
出てみると、如月が来た。
「来たわよ。はい、手土産」
如月は白い金平糖を持って来た。
「ゴミが猫ちゃんと秀家に、って……キクラゲはこれ」
「俺に? エロ本——」
エリンギには、アジの干物が贈られた。
「……どうせ魚なら、フカヒレが良かった」
「贅沢だな。猫なのにフカヒレって、それとゴミからの伝言、『時々でいいから、お墓に来てあげてね』だと」
「……」
「じゃあ、ボクはブラブラしてか——」
「如月‼ 待って! 何で如清さんはオレたちの手柄にしたんだ⁉」
「…………ボクがしたなんて、言えなかったのさ、ゴミはボクを戦に出したくないから」
「やっぱり心配で⁉」
「違う。ボクが大量の人間を殺さないように、それだけだ」
——如月なら、あんなに簡単に、ハサミで紙を切るように人を殺せる人間だ。そんな如月が戦に参加したら多くの人の命が奪われるだろう。
だから、如清さんは言わなかったのか。
「じゃあね。また会いましょ」
如月は去り、オレが戦に出た如月を想像していると、
「バカ猫、干物を寄越せ」
オレから干物を取り上げると、エリンギは器用に干物を焼いて食べだした。
「バカ猫の分は無いぞ」
「いいよ。オレには金平糖があるから」
「俺の分も残せよ」
数日後、オレが一人で大坂の町を歩いていると、
「あっ」
南蛮寺の方向に行く、王の兄ちゃんを発見した。
「お——」
近くで見ると、王の兄ちゃんは顔色が悪いし、何か焦っているようにも見える。
「⁉ 猫殿?」
「あっ」
呼びかけるのをためらっていると、王の兄ちゃんが気付いて、オレの方に来た。
「どしたん? 王の兄ちゃん?」
「……猫殿」
「王の兄ちゃん?」
今回はいつになく真剣だ。布教する時よりも顔がマジな表情だ。
「猫殿。もし、私やアウグスティヌスや他の者に何かあっても、気にせずにいてください」
「……なんで?」
「何でもです。とにかく、気にせず強くいてください。……私から以上です」
それだけを言うと王の兄ちゃんは去った。
「王の兄ちゃん?」
その後、宇喜多屋敷に帰ると、
「猫丸、帰って来たか……猫丸?」
「八郎、実は——」
八郎に王の兄ちゃんの様子を話した。
「成程、何かの病か?」
「や、病ぃ⁉」
「違うだろ。それは」
「そ、そうか。違うのか。じゃあ、なに?」
「さあな」