表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
備前宰相の猫  作者: 山田忍
98/153

猫と斬馬刀

 うおっ! っと、思った瞬間ズバッって音がして見ると、ななしが右肩から左の二の腕までが綺麗に切断されている。

 斬った主を見ると、エクステを付けていない白拍子の衣装を着た如月だ。

「ふん」

 白拍子の衣装が血まみれになっているのを月夜で確認して、血飛沫を浴びたオレと八郎が、ただ突っ立っているだけだった。

「如月……ななしは……」

「殺した。ウザいから」

「如月、その刀は本物か?」

 如月が腰に差している鞘だけで分かる長すぎる太刀、その刀を見せながら、

「そうだよ。本物の斬馬刀。この程度なら、簡単に真っ二つに出来る」

 ななしの遺体を蹴り飛ばしながら言った。

「「…………」」

 如月は小刀を拾い、

「猫ちゃん。あんた、ボクが居なければ、この小刀で斬られていたよ。恐らく右腕をね」

「……そうか」

 だけど……。

「如月、殺さなくてもいいんじゃないか?」

「私も殺したくはなかったが……」

「何で? こいつ、生かすと弥九郎様殺すんだよ。さっさと消さないと、弥九郎様が危ないんだよ」

「でも……」

「とにかく……ゴミ! これ、捨てとけ!」

 もう一度、ななしの遺体を蹴りながら言う、

「ええっ‼」

「ボクは帰る。着物が汚れたから」

 如月は走って去って行った。

「……」

「…………」

「…………あんたたち、放っておける性格じゃないものね。この子のお墓は用意するわ」

「「…………」」

「…………さあ、帰るわよ。治部ちゃんの事も気になるしね」

 オレたちは後味が悪いまま、屋敷に帰った。

 翌朝、石田殿は腕を動かし、

「もう、問題ないわよ!」

「そうか」

 せっかく腕が治っても、いつも通りの表情だ。

「治ったんですね! 石治部さん!」

「何だ? その言い方は? 吉利支丹殺しは解決したのだな」

「……そうよ。詳しくはアタシが話すわ」

「そうか。では、そうしてくれ」

「……ええ」

「宇喜多殿や馬鹿猫がが解決したのか」

 一瞬、ドキっとした。それは八郎も同じだ。

「えっと……その……」

「じっ——」

「いいのよ! アタシから言っておくから」

「とにかく、これで堺の憂いは晴れた事だ。帰る——くっ……」

 立ち上がると石治部さんの体がふらついた。

「腕は治っても、もう少し安静が必要ね。まあ、治部ちゃんは休んでいきなさい」

「なっ——うっ……」

 石治部さんは座り込んでしまった。

「言ったでしょ。先に二人は帰っていいわよ」

「ですが……石田殿を置いていく訳にはいきません」

「そうだ!」

「じゃあ、明日には歩けるくらいにはなるわ。それまで待つ?」

「ああ!」「待てる!」

「そう。じゃあ、今日は堺の町を観光したらどう? 治部ちゃんはアタシが見ているから」

「そうですか。では、お言葉に甘えて」

「行くぞー!」

「ふにゃ!」

 オレたちは堺の町を見学した。

「猫丸、どうしよう」

「お豪ちゃんのお土産?」

「ああ、扇子もいいが、堺の町を見ると」

 町を見渡すと、どれも珍しく、お土産をどれにするか決められない。

「八郎、これもいいよな」

「ああ、笄か……いいかもしれない」

 店には色とりどりの笄があり、迷ってしまう。

「ふーむ。……どうする?」

「わからん。八郎は?」

「私も迷っているのだ。この店の笄は全て見事な物だ」

「お客様! お目が高いわね! だったら全部買うかい?」

「そうか……全部……」

「おい! 八郎! やめろ! それはダメだろ!」

 いくらかかるんだ⁉

「では、猫丸。どれが良いのだ? 一つ選んでくれ」

「えっと……オレは……」

 そう言われると難しい。どれもこれも見事なのだ。

 オレが迷っていると、

「これなんて、どう?」

「「如月‼」」

 如月が持っていたのは、細やかな細工の赤い笄だ。

「確かに、これは見事だ」

 店のおばさんも驚き、

「如月、流石だねぇ……」

「知り合い?」

「まあね。あ! 後、この店の笄、全部頂戴! 代金は全額、ゴミに!」

「はい! まいど!」

 店のおばさんは上機嫌に言いながら、笄を取っている。

「ぜ、全部って……」

「全部だよ。これもそれも、全てゴミのツケ」

「ツケぇ⁉」

「代金はゴミにしておけば、ゴミが勝手にお金を出してくれるから、いいの」

「如清……さん。ダメージデカいだろうな」

「それより、笄、紐も巻いておいたわよ。後、この笄の代金もゴミが払うから」

 笄は花の形にリボンで巻かれている。

「如月……」

「猫丸、石田殿の所に戻ろう」

 そして翌日、

「もう動いていいだろう」

 石治部さんは着替えを終え、エリンギの近くに来た。

「ええ! いいわよ!」

「馬鹿猫と宇喜多殿が解決するとはな」

「実質は——」

「ふふっ。らーらーらー」

 如月が澄んだ高い声で歌って肝心なところがごまかされた。

「それじゃあね。二人とも」

 如清さんは何も知らないのか笑っている。

「また来てね。ご馳走するから」

 一瞬、如清さんの顔が曇ったのを見逃さなかった。

 大坂に戻ったオレたちが一番に会ったのは、

「まあ! 素敵でする! 綺麗な笄! それに、この紐も可愛い!」

 当然、お豪ちゃんだ。物凄く嬉しそうに笄を見つめている。

「喜んでもらえて嬉しいよ。お豪」

「よかったね。お豪ちゃん……」

「猫様、どうかしましたか? 遠くを見て」

「い、いや! 何でもない‼」

「そうですか!」

 真実は闇の中に……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ