猫と正体
「違うわよ‼」
「⁉」
オレは吉利支丹殺しの前に立ち憚った!
「アタシはあんたが殺したい奴の兄、如清って言うの‼」
吉利支丹殺しの前に、南蛮衣装を纏った如清が立っていた。
「⁉ あいつは⁉」
「あれは今、大坂にいるわ」
「猫丸!」
隠れていた八郎も出てきた。
「ああ、八郎。やっぱり、こいつだ。——久しぶりだな……確か名前は、ななし、だったな」
「⁉」
ななし、と言われた少年は、前髪で左目を隠し、血に染まった布を纏い、オレたちの前に現れた。
以前、薬屋に誘拐され薬にされかかったが、弥九郎さんに救出され、その時、姉を殺され、左目を潰され、右腕を切断された少年だ。
「……久しぶりだな、猫め! あの男は⁉」
「……弥九郎さんは堺に来ていない。それだけだ」
「ななしとやら、大人しくするのだ」
「くっ!」
ななしは剣を振り下ろした!
「おわっ!」「はっ!」
剣かと思った物は右腕で、ななしの以前切断された右腕は剣になっている。
「右腕が剣になっているのか」
「八郎、行けるか!」
「猫丸、私は問題ない」
「そうか! じゃあ、行くぞ!」
オレと八郎の二人がかりで、ななしと戦った。
「くっ!」
「うっ!」
初めて会った時よりも速く強くなっているのはわかる。
「けど……」
「こっちも負けねえ!」
ななしの腕を弾いたか、いかんせん義手なので、少し距離が離れた程度だ。
「たあっ!」
「来たぞ!」
もう一度、ななしと戦う。初めの頃のオレとは違い、鍛錬をして強くなったのだ。また負けるなんて、あってはいけない事だ。
「とりゃー!」
金属のぶつかり合う音が聞こえてくる。それが戦いをしていると感じる。
「たあー!」
そして今回は、ななしの姉はいない。二対一の戦いだ。
二対一だが、ななしも強くなっている。時々、オレが押されそうになっている。
「だが……」
相手が強くなっているのはわかる。けど、オレも負けない!
「はー!」
「⁉」
ななしを押し倒す事に成功した。
「だあー!」
「来たか!」
押し倒したが、ななしは起き上がり、オレたちに反撃をしてきた。
「猫丸! 今度は私が!」
八郎も、ななし相手に斬りつけた。
「でえええいいい‼」
「‼」
「くっ!」
八郎が、ななしに攻撃を仕掛けようとしたが、ななしが先に攻撃をして態勢を崩した。
「死ねっ!」
ななしが、八郎に斬りつけようとするが、
「八郎! 危ない!」
「⁉」
ななしを弾き飛ばしたが、受け身を取り、すぐにオレたちに向かってくる。
「猫丸、すまない」
八郎も態勢を取り戻し、すぐに構えに入る。
「八郎! それより、ななしが!」
「わかっている。猫丸、お主は行けるか?」
「ああ、問題ねえよ」
オレと八郎は構えて、ななしが向かってくるのを待った。
「……死ねぇ‼」
ななしがオレたちに向かって斬りつけようとしている。
「「させるかぁ‼」」
「ぐぅわぁ!」
オレと八郎で、ななしに向かい、そして、ななしの右腕の剣を折った。
「やったか!」
「やったな」
オレたちは、ななしに向かって、
「ななし、憎いのはわかる。けど、復讐に囚われては先に進めない」
「ななし、人を殺すより、お前が生きる事が大切だ」
「…………」
ななしはオレたちを睨みつけている。
「ななし、オレのせいで、お前の姉さんは死んでしまった。けど、関係ない吉利支丹を殺すのって、してはいけない事だろ」
「うるさい! 何がわかる! 拙者にとって大切なのは姉さんだけだ! 姉さんさえいれば、世界はそれでいい!」
「ななし……」
「姉さんこそ全てだ! 拙者にとって一族と言えるのは、姉さんだけだ!」
「「……」」
しばし沈黙が続いた。
「どうしよう……」
「猫丸……。取りあえず、父上の元に送ろう。それからでもいいだろう」
「ああ……」
オレと八郎で、ななしを縄で縛りつけようとすると、
「‼」
「「⁉」」
ななしは走って逃げだした。
「「待てっ!」」
「くっ!」
そんなに速くないが、ななしは走って逃げている。
「待てー!」
「逃げるなー‼」
「ここでいいか」
ななしは走って逃げだしたかと思うと、急に座り込んだ。
「ああ、なんだ」
「脅かさないでもらおう」
オレたちが、ななしを捕まえようとした瞬間、
「ん?」
ななしは小刀を持っている。
「猫丸‼」
「うおっ!」