猫と現場
翌朝、
「八郎、どこに行くんだ?」
「石田殿の様子を見て来る」
「じゃあ、オレも」
石田殿が療養している部屋に行くと、顔色の優れない石田殿が刀を持って立ち上がろうとしていた。
「い、石田殿⁉」
「なにしているんですか⁉ 休まないと‼」
「何を言う……馬鹿猫……早く……捕まえないと……」
「だが、如清殿は二、三日、安静が必要だと——」
「宇喜多殿……この騒ぎを解決しないで……どうする……」
「です——」
「ふにゃ!」
エリンギは石田殿に猫アッパーを食らわした。すると、石田殿は気絶した。なぜか幸せそうに。
「安静にしろって言ってただろ」
「エリンギ、気絶させたのか?」
「石田殿、えりんぎが殴っただけで気絶とは、そんなに弱っていたのか」
「別に弱っては、いないぞ」
「じゃあ、なんで——」
「あーら! 治部ちゃん‼ お元気ぃ……じゃないわね」
「いい夢見れた?」
「如清! 如月!」
朝からハイテンションな如清と現代的な着物を着た如月が現れた。
「治部ちゃんを身に来たら、寝ているみたいね。打刀を持って、ベッドから落ちてるけどね。——如月、直すわよ」
「けっ」
如清たちは直しながら、
「思っているより、寝相が悪いのね」
倒れた石田殿を見て驚いている。
「ニャハハハ……」
「……今回は偶然だろう」
「それより、あんたたち、朝餉……の前に行かない?」
「行くって?」
「吉利支丹殺しの現場によ。出たみたいね」
「「なっ⁉」」
「今朝、報告があったのよ。また、吉利支丹殺しに殺されたかもしれない人がいるって聞いたから、それを見に行くの。あんたたちも行くわよね」
「ああ!」
「行くぞ」
「決まりね。行きましょ」
現場に行く途中、
「まさか、昨日の隼人——」
「それは違うわよ。男女の連れみたい。隼人は一人で来ていたから」
「そっか」
「だが、かもしれないとは、どういう事だ?」
「それがね。今までとはおかしいの。見たらわかるわ」
そして現場にて、
「うわっ!」
周りは野次馬だらけで、オレたちが通る余地がない。
「どいて! どいて!」
如清が野次馬を追い払うと、オレたちの目の前に男女の死体がある。
「旅人のようね。吉利支丹殺しを知らずに来たみたいね」
「だが、この骸は」
「——確かに今までとは違うわね」
そこにある男女の遺体は女性の方は胸と腹を刺され血の池の中にいて、男性は左目を刺され、右腕が切り取られている死体だ。
「今まで、男も女も胸と腹と左目を刺し、右腕を切り取るのがやり方だったのに、今回は別々に殺しているわね」
「何故、今回だけ?」
「今までと違うのは、男女であるって事、大体、男同士か女同士か一人だったもの、男女で見つかったのは初めてよ」
「じゃあ、吉利支丹殺しをマネたニセモノ?」
「あり得ないとは言い切れないけど、まあ、物取りではないわ。ほら」
男性と女性の風呂敷や包みには金が十枚ずつ入っていた。
「そうだな」
「だったら、なんだ? なんで今回だけ……」
「取りあえず、いつまでも晒し者にする訳にはいかないわ。身元も調べてもらいましょ」
「帰るわよ。二人ともとキクラゲ」
「ふぎゃ!」
如月に襲い掛かろうとするエリンギを止め、戻る前に遺体を見た。
血の池にいる女性と、左目が刺され右腕が斬られた男性の遺体……。
「ん?」
何か、何かを思い出した。これって……。
そして朝食後、
「……八郎」
「どうした?」
「犯人、誰だと思う?」
「誰だろうな」
普段の調子だ。まだ、わかっていないみたいだ。
「俺はわかるぞ」
「エリンギ……わかったのか?」
「バカ猫、感づいているようだな」
「……ああ」
「ね、猫丸もわかっているのか⁉」
「一つは、発生している場所が堺である事」
「そうだ。堺だけだ」
「二つ目はバカ猫を見て何かに気付いていたな。そして三つ目は」
「三つ目は?」
「二度目に如月を除く全員で行った時、バカ猫ではなく如清だけを狙っただろ」
「ああ、そうだ」
「そして、その吉利支丹殺しは『見つけた。あの男だ』と言っていた。そして、如清って誰かに似ていないか?」
「⁉ 思い出した‼ まさか!」
「ボンボン、お前も思い出したか、そう言う事だ」
「猫丸、この騒動の元凶は——」
オレと八郎で吉利支丹殺しの名を言った。
そして、応接室にいる如清さんの所に来た。
「あのー、如清さん」
「なぁに?」
「吉利支丹殺しを捕まえるのは、オレと八郎だけで捕まえたいのですが……」
「……何で、そんな危険な事を」
「実は——」
如清さんに真実を言った。
「——そう。わかったわ。それで、アタシに出来る事は?」
如清さんに手伝える事を言った。
「——不愉快だけど、吉利支丹殺しを捕まえる為ですものね」
「ありがとうございます!」
「猫丸、後は夜を待つだけだ」
「ああ」
そして夜になった。




