猫と吉利支丹殺し
月明りのない暗い堺の町、そういえば、あの夜の堺も暗かったな。
「けど、今回は暗くないや」
「そうだな。前は明かり一つ無い中を歩かされた」
「それに比べると明るい」
「馬鹿猫、宇喜多殿、静かにした方がいい。敵は何処から来るのか、わからないのだぞ」
「ああ、悪い」
「確かに」
前みたいな暗闇を二人だけで歩かされる訳ではないから、今回は楽だ。
今回は先頭に如清が松明を持っているから、目の前は明るく見える。
「猫丸、吉利支丹殺しは何処に居るのかはわからないが探そう」
「ああ、エリンギ、戦いとか平気だよな?」
「ふにゃ(ああ)」
「吉利支丹殺し、ってあいつだよな?」
「恐らく、血に染まった布を纏った者だ。先程、私達を襲った」
「探している間に、人を殺しているかもしれないぞ」
「……そうだな。探さないと」
だが、中々出てこない。
「……いないのか?」
「このまま、いなくなってしまえば、自然に解決した事になるが」
「そうね。それなら、それでいいけど」
松明を持った如清の顔が照らし出されると、
「「⁉」」
石田殿と八郎が抜刀して構えている。
「ん?」
オレも何かを感じて、遅れて構えた。
「‼」
石田殿が如清の前に出て、得体の知れない者と対峙した。
「見つけたぞ! 吉利支丹殺し‼」
明かりに照らされて見ると、あの血に染まった布を纏った人物だ。
やはり、こいつがそうか‼
「…………見つけた…………あの男だ…………」
吉利支丹殺しは、オレや八郎、石田殿じゃなく、如清だけを狙っている。
「アタシぃ⁉」
吉利支丹殺しが如清の近くに行くと、
「させるか‼」
石田殿が前に出た。
「はっ!」
「!」
石田殿と吉利支丹殺しが斬り合いかと思ったら、
「⁉」
「……殺す!」
もう一度、如清に襲い掛かって来た。
「やめろ‼」「やめるのだ‼」
八郎とオレで吉利支丹殺しを止めた。
「くっ!」
攻撃をしてくるが、二人で何とか如清の元には行かせないぐらいだ。
「もうやめろ‼」
「そのまま、押さえつけろ!」
吉利支丹殺しを石田殿が後ろから、斬りつけようとすると、
「ぐあっ‼」
「「⁉」」
石田殿の袖が血で滲んでいる。血が出た腕を押さえ石田殿は座り込んだ。
「短刀か何かを投げつけたようね。あんな物を隠し持っていたなんて」
とは言え、何とか押さえつけて、二人がかりで捕まえる事が出来たらいいが……そう、上手くはいかないだろう。
吉利支丹殺しとの鍔迫り合いだが、長期戦になったら、どうなるかわからない。
オレと八郎の体力が持つか……吉利支丹殺しの体力が持つか……。持久戦に持ち込んで賭けに出るか?
どのくらい経ったかわからないが、表情こそはそのままだが、八郎も少し疲労の色が見えてきた。
「どうする……八郎」
「私達が出来る事は石田殿と如清殿を逃がす程度だ」
気が付けば、腕に布を巻いた石田殿が如清の隣にいた。
「そっか……。如清さん、石田殿を連れて逃げてください‼」
「な⁉ 汝らは何をする気だ⁉」
「残ります。残って戦います‼」
「私もだ! 二人共、先に逃げてください‼」
「宇喜多殿……馬鹿猫……」
「何、カッコつけてるのよ‼」
「いえ、二人だけでも‼」
「あんたたち残して逃げるなんて、示しがつかないじゃないの‼ 二人とも離れなさい‼」
「断る!」「イヤだ‼」
「離れなさいって、言ってるでしょ‼」
「くっ……」
「わかった!」
オレと八郎が離れると、吉利支丹殺しはオレたちを追いかけてきたが……。
「そら!」
「⁉」
如清が持っていた松明を吉利支丹殺しに投げつけると布は燃え上がり、動きを止めた。
「逃げるわよ‼ あんたたち!」
「ああ!」
「次こそは……」
「……」
火だるまの吉利支丹殺しを背に逃げていると、
「それにしても、暗いな。どうやって——」
松明が無いせいで、完全に闇の世界だ。
「ふにゃ!」
「あっ! エリンギ!」
エリンギの目が光っている。光っているエリンギの目を便りに如清の屋敷にたどり着いた。
「はあ……はあ……」
「逃げ切ったぞ」
「くっ……」
倒れる音がして見ると、石田殿が倒れていた。
「石田殿⁉」
「お、おい‼ 顔色悪いぞ!」
石田殿は、走ったオレたちよりも大量の汗を掻いている。
「もしかして、あの投げた物に毒か何かを塗りこんでいたのかもね。手当てをするわ。——如月‼」
和風メイド風ではなくナース風の服になっている如月が出て来た。
「何だよ?」
「治部ちゃんの手当てをするから手伝って‼」
「……わかった」
「あんたたちは、さっきの部屋で待っていて、終わったら、また戻るから」
如月が石田殿を連れて、如清と三人で奥の部屋に行った。
「オレらがいても足手まといになるだけだ。行こう、八郎」
「……そうだな」
「それにしても、如清って……」
「どうした?」
誰かに似てるんだよなー。確か……。