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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と先兵

「それより、話をしてくれ。今、堺で何が起きているかを」

「——そうね。吸いながら、お茶を飲みながらでいいから聞いて」

 オレたちも座りなおして、話を聞く準備をした。

「実はね。堺の町では、連続で人が殺されているの」

「「⁉ なっ⁉」」

「そう、被害に遭った者は傾奇者や町人、そして南蛮人、男も女も関係なく、ね」

「無差別殺人か……」

「違うわ。共通点は皆、ロザリオを身に着けていた事」

「えっ⁉ それって——」

「そ、吉利支丹だけ狙って殺しているの。——ただ、傾奇者は単なる飾りとしてだけど、身に着けていたから殺されたのね。それと南蛮人は無条件で殺害するそうね」

「……」

 だから、あの時、ロザリオを外せって……。

「伴天連達も変装して呼びかけているわ。——もしかして、猫ちゃん、呼びかけられたでしょ?」

「あ……はい」

「そして、吉利支丹を殺す者の特徴は、全て同じ殺し方をしているの」

「同じ殺し方?」

「右腕を切断して、左目を刺し、腹と胸を刺して、殺しているの」

「…………」

「もし、吉利支丹に恨みがあっても、全て同じ殺し方って、何かおかしいと思わない?」

「確かに、そうしないといけないのか?」

「どうしてか、ってのは、わからないけど、アタシたちには、この吉利支丹殺しを少しでも早く止めないといけない理由があるのよ」

「理由?」

「実は、日本ゼズス会準管区長であるコエリョ様が三月の中頃ぐらいにこの堺を経由して、大坂に行くのよ。それなのに、堺で吉利支丹殺しなんて、洒落にならないでしょ」

「ゼズス会って、南蛮宗のだよな」

「そうだ。それにしても、大坂にそんな事があるのか」

「初めて知った。石田殿は知ってたの?」

「当然だ」

「そうそう、吉利支丹殺しを知ったジュストの怒りようと言ったら……おおっ、こわっ!」

「ジュスト?」

「……馬鹿猫、高山殿の洗礼名だ」

「ああ! 王の兄ちゃんの事か」

 そりゃあ、怒るよな。

「でも、上様はジュストを行かさなかったの」

「えっ⁉ なんで⁉」

「彼が、その謁見の中心になるからよ。——お父様から聞いたわ」

「成程、それで父上は高山殿に何かあってはいけないからか」

「それでも行こうとしたわよ。——止めるのに苦労したわ」

「わかります」

 なんとなく想像できるが、恐らく、その数十倍は暴れただろうな。

「上様の方で説得して、一旦はやめてくれたわ」

「よくやめましたね」

「先に先兵に行かせて、その先兵が死んでから行かす事にしたの」

「先兵って、なに?」

「軍で言うと、最初に警戒や散策をさせる事だ。つまり、最初に行かせる者達の事だ」

「って事は、オレたちを一番最初に行かせたって事⁉」

「そーう!」

「待てえええええええ‼ ろくすっぽに情報の無い中にオレたちを行かせて、もし、オレや八郎が死んだらどうするんだぁ‼」

「死んでも問題ないわ。情報を知ってから、ジュストか誰かが代わりに来て、吉利支丹殺しを捕まえてくれるわ」

「オレと八郎の命は、この世に一つだけ!」

「猫丸、死ぬ時は死ぬ。父上の役に立てただけ、本望ではないか」

「いや、でも、若い命‼」

 叫んでいると、エリンギがオレの足をつついて、

「ふにゃ(俺は)?」

「えりんぎち……えりんぎの命も大切な命だ‼」

「ふにゃあ(そうだろ)!」

「当のジュスト本人には、より詳しい事がわかってから行かすって事になってるけど、もし、あんたたちが遅くなったら、勝手に堺に行くわよ。それで解決したら、あんたたち、メンツが丸つぶれよ」

「「…………」」

 捕まえるのに時間がかかると、確実に来る。後から来た王の兄ちゃんが先に捕まえたら、先兵として来たオレたちの意味がない。

「確かに、猶子である私が父上の役に立てないのは、あってはならない事だ」

「……来たら、オレら、怒られるのかな?」

「驚くとは思うぞ」

「そっか。——あっ‼ 王の兄ちゃんが来なくても、弥九郎——」

「えっ⁉」

 すごい絶叫だ。そういえば、如月がいたんだ。しまった……忘れていた。

「ねえねえ‼ 猫ちゃん‼ 何で弥九郎様来ないの⁉」

「さあ……」

 如月はオレの体をガクガク振っているが、どうして王の兄ちゃんが謁見の中心になるので行かせたくないのは、わかるけど、なぜ中心でない弥九郎さんを行かせなかったのか、わからない。

「ああ、それ? 行かせなくていいって、アタシの方から言っておいたか——如月?」

 如月は急いで部屋を出ると、茶釜を持って戻って来た。

「……ゴミぃ……南蛮胡椒と塩水じゃマジぃだろ……代わりに沸騰した油を用意した……全身に浴びな」

「ちょっとおおおおお! やめなさいよおおおお!」

 如清はすぐに椅子から離れて逃げた。高そうな椅子に油がかかり、無残な姿になった。

「……硫酸を飲ませてえな」

「如月いいいいいい‼」

 如月は不愉快そうに茶釜を持って出て行った。

「——ごめんね。見苦しいところ見せちゃって」

「普段が見苦しいから構わん」

「んもう! 本当でも言わないの!」

「でも、今、夜だよな。吉利支丹殺しって、この時間、活動しているのか?」

「……そうね。骸が見つかったのは、全て朝……夜に外出を禁止しているから、殺される人も最初よりは少ないわ」

「じゃあ、行きます? 吉利支丹殺しを探しに?」

「猫丸……私も探しに行きたいです! えりんぎはどうする?」

「ふにゃ(行くぞ)」

「私も行かせてもらおう」

 石田殿が言ったと同時に、如月が戻って来た。

「そう、じゃあ、ちょうどいいわ。如月は留守番って事で、アタシたち、吉利支丹殺しを捕まえに行くから」

「右腕が斬られ、左目が潰され、胸と腹に穴の開いたゴミが見れるのを楽しみにしてるぜ」

「如月!」

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