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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と煙草

「えーと、このオネ……お方が堺政所?」

 メガネを掛け着流しを着た、色白で背の高い美形の男の人だが、喋り方が……。

「そうよ。この治部ちゃんと一緒に堺政所をしているの」

「——そうだ」

 石田殿は不愉快そうに如清を見ながら、相槌を打った。

「でも、実質はほぼアタシなんだけど」

「はあ……」

「それより! これが猫ちゃんなの⁉ 嬉しいわ! 初めて見たわ!」

「わあっ‼」

 如清がオレの耳や尻尾を触りまくっている!

「尻尾も耳も可愛いわぁ!」

「あのー。止めてください」

「やめんか。如清」

「そうね。残念だけど」

 オレから離れ、如清は座り、戸の方に向き、

「ちょっとぉ! あれ持ってきてくれるかしら?」

 戸が開き、中に入って来たのは、

「如月⁉」

 和風メイド風に仕立てた着物を着た如月が、茶と箱を盆に載せて持って来た。

「——あら、久しぶりね。猫ちゃん、キクラゲ」

「ふぎゃああああ(エンリケだ)!」

「如月‼ きくらげでは無く、えりんぎちゃんだ‼」

「「——ちゃん?」」

「い、いや、えりんぎだ」

 オレ達が聞くと、石田殿は気まずそうに言った。

「ふぎゃああああああ(エリンギでもないエンリケだ)!」

「怒っているな、えりんぎ」

「——それより、あんたたち、知り合い?」

「まあ、はい」

「私は歌舞を見た程度だが……いつの間に親しくなったのだ? 猫丸?」

「あー。まあ、いろいろ……」

「それより、はい。お茶」

 如月はオレ達の前にお茶を置いてくれた。

「あっ、悪い」

「すまないな」

「ふん」

 オレたちに出し終わると、

「ほらよ」

 如清だけ、欠けた茶碗を乱雑に出した。

「ありがと、良い子ね」

 如清が飲むと……。

「ぶううううう!」

 いきなり吹き出し、吐き出した。

「ちょ、ちょっとぉ……如月、何、淹れたの……」

「南蛮胡椒五百本、粉末にして水で溶かしただけだ」

 如月は何事も無いように言った。

「南蛮胡椒……! 如月……それ……毒よ……。水……持ってきて……」

「けっ」

 オレは小声で、

「エリンギ、南蛮胡椒って?」

「唐辛子だ」

「と、唐辛子……五百本……」

 如月は水を持って来たが……。

「気が利くわね……如月……ゴクゴク——ぶうう!」

 また吹き出し、吐き出した。

「こ……今度は何……?」

「大量の塩を海水で溶いただけの物だ」

「如月……親を親と思わない……わね」

「誰がてめえを。てめえはゴミだ」

「ゴミって……一応、父親よ」

「猶子だろ、遺産の入らねえ」

「全額、寄付するものね」

「その前に、遺産が全額ボクに行くようにするだけだ」

「如月‼ いけません‼」

「そういや如月。以前、ゴミの元で暮らしているって言ってたけど」

「そのゴミがこれよ」

 ぶっきらぼうに如月は、如清を指さした。

「如月、父親を(ごみ)扱いは良くない。いくら父親が嫌いでも、猶子としている以上は、父上と呼んだ方がいい」

「こんなのゴミだし、ゴミをゴミ扱いするのは当然だろ」

「しかし!」

 八郎が立ち上がると、

「猫ちゃんの友人でなければ、殺すぞ」

「「‼」」

 如月には殺気は無い。友達と喋る様に、ただ普通に言っている。

「喧嘩はするな。こんなところで揉めてどうする」

「——そうよ。喧嘩なんてしちゃダメよ」

「そう、だな……」

 冷静になった八郎は座り、お茶を飲んだ。

「敵は如月じゃないもんな」

「ああ、そうそう。これ好きなだけあげるわ」

 如月が持って来たアジアンテイストな箱の中には、刻んだ葉っぱが入っている。

「あのー? これは?」

「これぇ? 煙草よ。見た事ないの?」

 如清は煙管を取り出し、葉を詰め、火を点けて、煙草を吸い始めた。

「治部ちゃん。煙草いるでしょう。持っていっていいわよ」

「そうか。では」

 少し貰うと、石田殿もタバコを吸いだした。

「猫ちゃんは煙管ないの? ないならあげるわよ!」

「タバコって‼ 未成年はタバコを……って、八郎‼ 吸ってる‼」

 八郎もキセルを使って吸っている。

「八郎! だから、未成年は——」

「猫丸、煙草は薬だ。薬を吸って何が悪いのだ?」

「タバコは毒なんだ! タバコを吸うと体に悪いんだ!」

「煙草は毒なのか。では、石田殿や如清殿は吸ってはいけないのでは?」

「良くないけど、オレたちの世界では、タバコは二十歳からって決まっているんだ。それ以下が吸うと罪になるんだ。ちなみに飲酒もだけど」

「そうか……。では、煙草はやめよう。——酒はやめないが」

 八郎はキセルを置いて、如月の方に向いた。

「では、如月も吸ってはいけないのでは?」

「あっ‼」

 如月は壁にもたれて、タバコを吸っている。

「如月! お前も——」

「猫ちゃん。猫ちゃんの学校でもいたでしょ。煙草吸ってるヤツとか?」

「いたけど、オレは注意する」

「あら、良い子ね」

 如月は、タバコを止めずに吸っていると、八郎が小声で、

「……猫丸、猫丸の国には、猫の煙草を吸う年齢って決まっているのか?」

「猫……」

 イヤな予感がして、あいつを見ると、案の定、タバコを吸っていた。

「エリンギィィィィィ‼ なに吸っているんだ‼」

 エリンギは小声で、

「猫が煙草を吸ってはいけない法律はないだろ」

「そういう問題じゃない!」

 エリンギから、タバコを取り上げると、エリンギが引っ掻いてきた。

「やめろ!」

「ふぎゃあああああ(俺の煙草)‼」

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