猫と堺政所
「堺は久しぶりだな。八郎、お豪ちゃんのお土産、何にする?」
「そうだな……扇子とか?」
「いいな! それ!」
「ふん。童は気楽なものだな」
「ふにゃん(どうした)?」
「猫は忙しいからな。抱いて堺まで連れて行ってやろう」
「ふにゃ……」
エリンギは石田殿に抱っこされ、少し不服そうだ。
それから少しして、
「見ろ、堺だ」
「本当だ。だけど……」
「どうした?」
「堀はどうしたのですか?」
久しぶりに堺に行くとあの深い堀が埋めている途中になっている。
「ああ。今、その最中だ」
そして、門を通る頃には、夕方になっていた。
「久しぶりの堺だなー」
「そうだな」
堺は相変わらず人はいるが何かが違う。
「うーん」
「どうした? 猫丸」
「なんて言うか、何か皆、様子がおかしいよな」
「うーん。確かに皆、一部の者や南蛮人が早歩きで歩いているな」
「行くぞ、宇喜多殿、馬鹿猫。堺政所が待っているのだ」
「ああ、そうだな」
オレたちが歩いていると、
「あなた、それを外しなさい!」
「⁉」
「な、何だ⁉」
現れたのは着物を着た外国人だ。外国人はオレを見て、いきなり話しかけてきた。
「な、なんですか? 外せって……」
「そのロザリオです。それを外さないと、あなた殺されます」
「えー。外すのー! 貰い物なのに!」
「そうです。外さないと殺されます」
「なんで、ロザリオ——」
「行くぞ。その話は後でする」
「後でって、これに関係あるの?」
「そうだ。貴方は伴天連だろう。貴方も早く帰った方がいい。この馬鹿には、私から詳しい話をする」
「そうですか。では」
オレに話しかけてきた外国人は慌てて去って行った。ふと見ると、周りは誰もいなくなってきた。
「あ、あれー?」
「いないな」
「……急ぐぞ」
空を見ると日が暮れかけている。本当に町には誰もいない。
「……おいおい」
「静かだな」
「早く行くぞ!」
「あ、はい!」
「石田殿、早く行かないといけない理由があるのですか?」
「それは——⁉」
「「「⁉」」」
屋根の上から、何かがやって来た‼
「汝か⁉」
来たものを見ると、血に染まった布を纏った人が立っていた。
性別は分からないが、殺気があるのは確かだ。
「くっ‼」
石田殿は抜刀して構えている。
「石田殿! オレも!」
「私もだ!」
「馬鹿者! 先に行け! 堺政所のいる場所は向こうだ!」
「だが……」
「一人だけ置いて行けねえよ!」
「……馬鹿どもめ」
オレたちと敵が対峙していると、
「!」
「⁉ 何だ?」
「殺す……‼」
一瞬だけ見えた目には強い殺意が込められている。
「なっ⁉」
オレも抜刀して叩きつけようとすると、
「馬鹿猫‼」
「石田殿!」
石田殿が前に出て、石田殿と敵の鍔迫り合いだが、短刀を持った敵はすぐに離れて攻撃すると、石田殿は避けた。
「馬鹿猫! 宇喜多殿! 早く行くのだ!」
「猫丸!」
エリンギを抱えた八郎がオレの腕を引っ張る。
「わ、わかった……」
「行ったか」
戦う石田殿を見ながら、そのまま後にする。
「猫丸、堺政所はあそこだ」
「ここか」
目の前には明るい屋敷があった。その門番に、
「すまない! 私達は宇喜多八郎秀家とその猫、猫丸だ! 石田殿が敵と応戦している! 応援を頼む‼」
「わかりました。では、お入りください」
オレたちは屋敷の一室に通された。
その応接室らしき部屋は、明らかに西洋風で椅子や机もある豪華な部屋だ。そこで待っていると、
「⁉」
「あ~ら。可愛い子たち、話は聞いているわ」
「あんたがそうか⁉ 石田殿——」
その人はオレの唇に指を当て、
「わかっているわ。もう来るわよ」
「「えっ⁉」」
また戸が開き、入って来たのは……。
「く……」
「「石田殿‼」」
「宇喜多殿と馬鹿猫か」
石田殿は着物が少し切られているが血は出ていない。
「怪我は無いようね。よかったわ」
「ふん。当然だ」
「そ~う! よかったわ! 皆、無事で歓迎してあげる!」
「歓迎より本題に入れ」
「——そうね、座って。早速、本題に入るわ」
「……」
「どうした? 馬鹿猫?」
「……石田殿。この人が、もう一人の堺政所ですよね」
「そうだ。それが?」
「なんで……」
この人は……。
「その……」
「無いのなら、この——」
「そ、アタシがもう一人の堺政所をしている如清よ!」