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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と切腹

「折れた……」

「……折れたな」

「「折れてしまったあああああああああああああああああ‼」」

「はっはっはっはっは、よきかなよきかな」

「よくない!」

「エリンギ! なに気楽に言ってやがる‼」

 三日月宗近は真っ二つに折れてしまった!

「どうするんだ⁉ 八郎⁉」

「仕方ない……切腹するぞ」

 八郎は覚悟を決めた目で言った。

「切腹って……死ぬの⁉」

「当然だ。私達は取り返しのつかない事をした。そのくらいの事をしないと、父上や母上に顔を向ける事は出来ない」

「そ……そうなの……⁉」

「そうだ。大切な太刀を折ってしまったのだ。そのぐらいはしないといけない」

「うそ…………八郎、切腹って、どうするの?」

「切腹はまず、上半身裸になり、刀を腹の下に刺し、右に回して引き抜く、次に胸の下に刺し、そこから押し下げ、十文字に斬る。そして、余裕があるのなら喉を突く、これが切腹だ」

 八郎は手で動きを再現しながら言っている。

「ほ、ホントに腹切るのおおおおおお⁉」

「そうでないと、切腹にはならないぞ、猫丸。もし、最後まで出来ないのならば、介錯をしてもらう」

「介錯って?」

「止めに首を斬るのだ」

「えええええええ‼ オレ、首斬られるのおおおおおお‼」

「そうだ」

「じゃ、じゃあ、介錯って、誰が……?」

「私がする」

 堂々とした態度で八郎は言うが、

「八郎が?」

「ああ、確実に失敗するが、猫丸を他の者に介錯してもらいたくないだけだ」

「ちょっと待て! じゃあ、八郎は誰に⁉」

「孫七郎殿にしてもらおうかと——」

「てめー‼ なに自分だけ楽な方に行こうとしてやがる! オレには失敗するって言っておいて‼」

「ふふん! 楽しみだな。そして俺は、お豪ちゃんと……」

 エリンギは楽しそうに言っている。

「エリンギィィィィィ‼ お前を一番に斬首してやる! オレらが死んだら、何お豪ちゃんの所に行こうとするんだ!」

「えりんぎ、いい覚悟だ。私達と一緒に切腹しよう」

「こうなれば、介錯は女男に頼むぞ!」

「わかった。虎之助さんと左衛門さんにお願いするよ」

「何でそうなる‼ 酒の肴にする気だろ‼」

「当然だ‼」

「先に真実を父上に話そう」

 他の刀と折れた三日月宗近を持って、大坂城に戻ると、

「…………」

「あら」

「…………嘘」

「やっちゃったねえ」

 皆さん、ほぼ絶句だ。上様は固まって、孫七郎さんに至っては後ろに倒れた。

「申し訳ありません、父上! 母上!」

「すいませんでした‼ ほら、エリンギも!」

「ふにゃあ!」

 オレ達二人は土下座しながらエリンギの頭を押さえつけた。

「「「「…………」」」」

 皆、固まったままだ。

 しばらく経つと、

「八郎、猫達」

「は、はい! 何でしょうか⁉」

「なんですか⁉」

 きたか。

「お主らはよくやった!」

「「……は?」」

「三日月宗近は惜しいが、お主らが持ってきた刀剣は全て名刀じゃ!」

「えっ?」

「銘が無い物があるが、調べてみれば名刀かもしれないだけだが」

「恐らく全て、名刀じゃ!」

 上様と孫七郎さんは喜んでいる。

「それに、これは…………あの時、無くなったはずなのに……」

 上様の体は震えている。

「この刀は薬研藤四郎(やげんとうしろう)じゃ……あの時……本能寺で無くなった……」

「う、う……嘘だろ……」

「上様の刀……見つけた…………八郎……猫……でかした」

 上様の声は、声にならない声だ。

「そ、そうですか……」

 だが、すぐに上様は普段通りの明るさになり、

「八郎、猫」

「「な、何でしょうか⁉」」

「三日月宗近を折った事は、本来なら斬首じゃ。しかし、八郎が苦労して取り返した事と正直に詫びた事と数々の名刀を手に入れた事、それらで帳消しにしてやろう!」

「ほ、本当ですか⁉」

「あ、ありがとうございます!」

「しかし、この義元左文字は無しじゃ」

「そのつもりです、父上。私は父上と母上の為に刀を取り返しにきただけなのです。刀が欲しくて、取り返した訳ではありません」

「そ、そうか……感心じゃ‼ 八郎!」

「良い心がけです。八郎」

「父上……母上……」

 八郎の目には、涙が浮かんでいる。

「でも、どうするの? この三日月宗近は? 取り返したのはいいけど、折れたってばれると、他の大名に言われるかもしれないよ」

「そうか……では」

 その後、

『いやあ、余の間違いじゃ! 三日月宗近はここにあった』

『『『『『『『『はああああああああああ⁉』』』』』』』』

『ほれ、この様にじゃ!』

 上様が抜いた太刀は見事な物だった。

『あー。本当だ。確かに、これは三日月宗近だ』

『そうだねえ』

『そ、そうか……』

 上様は土下座して、

『すまん! 皆、すまない‼ その詫びに宴をしようと思う!』

『『おおおおおおお!』』

 宴になり、翌朝まで続いた。

 が、一番の謎が出来た。

 なぜか、三日月宗近は元に戻っていた。

「なんで戻っていたんやろ?」

「さあ……何故だろうか?」

「まあ、いいだろ! 酒が飲めた!」

「エリンギ!」

「んにゃんにゃ……」

 エリンギは、腹を見せて寝た。

「寝たか」

「寝てしまったな」

 そして、オレたちに謎が残った。

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