猫と名刀
『緊急じゃ! 緊急じゃ!』
大坂城に多くの大名が集まった。
『上様、どうしましたか?』
『うむ、実は盗まれたのじゃ』
『えっ?』
『三日月宗近が盗まれたのじゃ!』
『『『『『『『『な、何いいいいいいいい‼』』』』』』』』
『三日月宗近が盗まれたって?』
『そうじゃ! 奥御殿に曲者が押し掛け、盗まれてしまったのじゃ』
『負傷者は?』
『侍女が二人。その内、一人は大した怪我は無いが……もう一人の方は全身が傷だらけじゃ』
『な……』
『こうなるのなら、隠しておけば良かった』
『では、どうするのですか?』
『うむ、三日月宗近を取り返しに行かなくては、いけないのう。だが曲者は妙な怪物の中に入り逃げたと、皆、目撃したのじゃ』
『怪物?』
『巨大なイルカみたいな姿をしておる』
『そんな怪物が……ですが、私は取り返しに行きます』
『そうか、八郎。だが、これだけの事があって、汝らにタダで取り返して貰おうとは思わん』
『思わん、とは?』
上様は刀を出し、
『この義元左文字をやろう』
『『『『おおおおおおおおっ‼』』』』
こうして、義元左文字の為に行く事になったのだ。
だけどその前に、
『義元左文字は、渡さないよ~』
『ぎゃっ!』
オレとエリンギだけの時に、このように言って知らない男に尻尾を掴まれたのだ。
これが夜中の出来事だ。
朝、
「全ては父上の為だ」
「わかってるって、悪い奴らからその刀を取り返せばいいだけだろ。だけど八郎、三日月宗近って?」
「三日月宗近とは、太刀の中で最も優れた五振りを天下五剣と言い、三日月宗近はその内の一振りだ。他には、童子切安綱、鬼丸国綱、大典太光世、数珠丸恒次、その中で特に美しい三日月宗近は筆頭とされている。決して義元左文字同様、大根や瓜を切る刀ではない。わかるか、猫丸」
「わかった。けど八郎、三日月宗近を盗んだ奴らを探さないと」
「そうだ。その刀を盗んだ者を探すのだが……えりんぎ、わかるか?」
「ふん、知らん」
「そうか、知らないのか」
以前の件で八郎にエリンギの事が暴露されてしまった。が、エリンギは気にせず、いつも通りに行動しているだけだ。
「オレも聞くけど、エリンギ、わからないのか?」
「ああ、これはわからないな」
「そうか。わかったら教えてくれ」
ここに居ても、何も進展しない、こんな時は、
「八郎、探しに行くぞ」
「探しに……そうだな。探しに行くか」
「そうだな!」
エリンギが上機嫌だ。つまり、
「エリンギ、ガールハントするなよ」
「何‼」
二人と一匹で探しに行く事にした。
そして夕方、
宇喜多屋敷に帰ったオレたちは、
「八郎、見つかったのか?」
「猫丸、怪物が見つかったぞ。場所は大坂の外れだ」
「大坂の外れにあったのか?」
「ああ、明らかに目立つ物がある様だ。その姿は恐らく父上が言っていた姿だ。だが皆、警戒して中々近寄らない様だ」
「そっか。じゃあ、探しに行くぞ」
大坂の外れ、
「どこだ?」
「聞いた話ではここだ」
「えっ⁉ これ……」
どう見ても巨大なイルカ型の乗り物がある。可愛らしいが、この世界では異質の物である。
「八郎、この中に三日月宗近があるのか?」
「わからない。が、行くしかないだろう」
「じゃあ、行ってみよう」
「待て! 猫丸!」
八郎は石を拾い、石を口の所に当てている。
「八郎、何しているんだ?」
「猫丸、石で口を当てて、口が開く様にしているだけだ。口の中から入ったと聞く」
「こんな乗り物の口を当てても意味がないと思うけど……」
オレはイルカ型の乗り物の周りを探すと、ハシゴとドアが見つかった。ハシゴを使いドアまで行き、開けると、
「八郎‼ 中に入れるぞ!」
「そうなのか⁉ これで、この中に入る事が出来るのか⁉」
「ああ‼」
二人と一匹でイルカの中に侵入成功した。
「この中にあるのか?」
「たぶん」
「猫丸、ここは?」
シャワーがある風呂場、軽く探してみるが当然ない。
「では、ここは?」
この部屋には沢山の服があるクローゼットだ。クローゼットも探してみるが何もない。
「何処にあるのだ」
八郎が適当に開けた部屋には大量の刀がある。
「あっ‼ これは⁉」
八郎は沢山ある内の一振りの太刀を手にした。
「猫丸、これだ。これが三日月宗近だ」
「これがそうなん⁉」
八郎は太刀を抜き、
「ああ、これだ。これがそうだ」
「そうなのか」
八郎は改めて、部屋を見渡すと、
「それにしても、ここには大量の刀がある。少し見てみたい物だ。——猫丸、見張りを頼む」
「ええっ⁉ 見るの⁉」
「ああ、そうだ。少しでいい。ここにある刀が名刀であるか、見たいだけだ」
「——わかった。少しだけだぞ」
「えりんぎも頼む」
「後で、ご馳走一品追加しろよ」
「わかった。少し見ていてくれ」
オレとエリンギで見張りをして、少し経ち、八郎に聞くと、
「八郎、どうだ?」
「詳しい事はわからないが、見た目だけなら、これらは恐らく名刀だ。持って帰れば父上達は喜ぶであろう」
「そんなにすごいのか?」
「ああ、詳しくは持って帰らないといけないが」
「そっか、じゃあ、持って帰るのか?」
「だが、父上は三日月宗近を取り返せと言っている。他の刀を手に入れても……」
「そうだな。それだけは持って帰らないと、上様の大切な物だからな」
「いや、持って帰っておけ、喜ぶかもしれないぞ。怪我人も出ているんだ。慰謝料代わりだ」
エリンギの言葉を聞いた八郎は嬉しそうに、
「そうか、持って帰るぞ。猫丸」
「帰るのかよ‼」
こうして、三日月宗近と他の刀を持って脱出したオレたちは、
「帰るぞ」
「ああ」
「これで義元左文字は俺らの物だ」
「えりんぎ、何を言っているのだ? 義元左文字は父上の物だ。私には受け取る資格はない」
「な、何ぃ‼ 売れば高いのに‼」
「売る売らないの物ではない、私は父上と母上が大切にしているから取り返すだけだ。それ以上、何を望むのだ?」
「金に決まっているだろ‼」
「やれやれ」
「エリンギは、そういう——⁉」
いきなり明るくなった。