猫と発覚
如月の屋敷に着くと、もう一度、隠し扉を使って屋敷内に入った。
朝居た寝室を見ると、片付いており、如月もいない。
「いない……」
「春画とかは片づけたようだな。——つまらん!」
「そんなことより探すぞ」
「エロ本なら探すが」
「エロ本って……⁉」
オレは今頃になって、おかしい事に気付いた。
「エリンギ、如月って可愛い子だよな?」
「外見は、な」
「なあ、なんでエリンギ、如月に興味がないんだ? 普段ならヨダレたらしてハアハアした顔になるのに?」
「バカ猫‼ そんな顔するか! 可愛い顔ならするが、そんな顔は一度もしたことがないぞ!」
エリンギは激怒したが、普段は可愛い女の子を見ると、
「してるじゃん。それより、如月はどこにいると思う?」
「……風呂場だな。ついて来い」
エリンギの後について行くと風呂場があった。
風呂場は大きな桶が一つあるだけで、外から丸見えだ。だが、そこに鼻歌を歌いながら入浴している如月がいた。
「あっ……」
「あら、来たわね。見つかったの?」
「あ、ああ……」
如月は裸なので恥ずかしくて見れない。
「いいじゃない、見ても。ウブね、あんた」
「そ、それより、見つけたぞ!」
「ふふっ、どれどれ……」
如月は手ぬぐいで濡れた手を拭くと、オレが持っている本を取り上げて読んだ。
「これよ、これ」
満足した表情で読んでいる。
「で、どうする? 如月」
「ふふ、そうね。仲良くしましょ」
「じゃ——」
「今から、ベッドの上で……」
如月が風呂桶から出ると、
「ああっ⁉」
華奢な体に不釣り合いの大きな胸に——
「なっ⁉」
「どうしたの? 驚いて?」
「そ、それは……」
如月の下半身には、男性が持っているモノがあった。それを指さしながら、
「これに驚いたの? ボクは両性具有、男でもあり女でもあるの。だから、愚民どもはボクに興味を持つのよ」
笑って答えた。
「そ、そうなの、か……」
「さあ、行きましょう。お話をしたいのでしょう」
こうして寝室に行くと、如月はワインを出し、グラスに注ぐと、
「飲む? 美味しいわよ」
「いや、いらない」
「俺もだ」
「エリンギも⁉」
酒だぞ‼ 酒‼
「残念ね。一人で飲むわ」
ワインを飲みながら、甘く潤んだ目で見つめ、オレに擦り寄る様に近づいた。
「ふふっ、ボクがいつから来たか教えてあげる」
「そうか‼ いつなんだ⁉」
「ボクは、キクラゲと同じ時代だよ」
「え、エリンギとぉ⁉」
エリンギは頷いた。そして納得した。エリンギが堂々としゃべっている事が。
「じゃあ、如月はなんで、どうやってここに来たの?」
「ここに? 自らの意志って言うより、送り込まれたって、言った方が正解ね」
「送り込まれたって、あの怪しい男に⁉」
「怪しい男?」
「全身チェックの男だけど……知らない?」
「うーん……ああ、それじゃないわ。別の奴らよ」
「別の⁉ 別のって——」
「それ以上は教えないわ。他に聞きたい事は?」
「そうか……如月はいつからこの時代にいるの?」
「三年前から。そしていつの間にか、あのゴミの元で暮らしているだけ」
「ゴミって?」
「ゴミはゴミ、それだけ」
「それだけって言われても……あっ⁉ そういえば、弥九郎さんとは——」
「バっ——」
「弥九郎様について聞くの‼ さあ、好きなだけ聞いて‼ ねえ! 聞いてぇ‼」
それまでの官能的な如月と違い、活き活きとして、どことなく全身がキラキラとしている。
「えっ⁉ ええっ⁉」
「弥九郎様の事は……ああっ‼ もうダメぇ‼ その名前だけで、もうボク……」
「えっと……如月?」
如月は体をくねらせ、倒れてしまった。
「駄目だ。また来るぞ。行くぞ、バカ猫」
「ああ~~‼ あの時は——」
ワケのわからないテンションの状態だ。これでは、話にならない。
「あ、ああ……そうだな……」
「ふん」
外に出て、帰りながらエリンギと話をした。
「エリンギ、知っていたのか?」
「ふん。どうでもいいだろ」
「どうでもいいって……」
「とにかく、あいつの事なんて、どうでもいいだろ」
「いいのか」
そして真夜中、宇喜多屋敷のオレの部屋にて、
「エリンギ」
「何だ?」
エリンギにこっそり聞いてみた。
「エリンギ、なんで如月に興味ないんだ? 両性具有だから?」
「そういう問題ではない」
「そういう問題って、どういう——」
「どうもこうもない! つまり——」
「猫ま——」
話の最中に八郎が来た。
「猫丸、今、えりんぎが喋ったのだが……」
バレた⁉
「ふにゃあん」
「い、いや」
エリンギは可愛くしらばっくれるが、八郎はエリンギに近寄り、
「いや、喋った。えりんぎは喋ったぞ」
「仕方ない、ばれてしまったか」
エリンギの声を聞いた八郎は、ものすごく驚いた表情になり、
「えりんぎが、喋っ——」
「うるさい」
エリンギは八郎に猫パンチを食らわせた。
猫パンチを食らった八郎は冷静になり、
「え、えりんぎは喋る事が出来るのか……」
エリンギの全身をしげしげと見ている。
「そうだ」
「えりんぎが会話出来るとは……」
「どうした? 八郎?」
「えりんぎこそ、父上に——」
「やめろ」
また猫パンチをした。これってデジャヴ?
「な、何故、えりんぎは喋る事が出来るのだ……はっ‼ もしかして、えりんぎは妖怪なのか⁉」
「なんでそうなる?」
「妖怪でなければ何だ⁉ 猫丸⁉」
「八郎、エリンギは時空——」「その辺の猫より優れた知恵を持っているから、喋る事が可能なだけだ!」
エリンギがドヤ顔で言った。
「エリンギ‼ そんなウソ——」
「成程、優れた知恵で喋る事が出来るのか」
八郎は納得した。
「は、八郎……信じたんだ……」
「いいか。この事は言ってはいけない。もし、誰かに言うと天罰が起こるのだ」
「て! 天罰が⁉ そうか。ではやめよう」
「最初から、そうしろ」
八郎には、エリンギの事がバレたが納得してくれた。が、
「こ、これでいいのか……?」