猫と関係
「あっ⁉ 弥九郎さん‼」
「猫さん。さっきはすんません。逃げてしもて、で、何の用や?」
「いえ、もう、それは解決しました。——それより弥九郎さん。如月と何かあったのですか?」
「いえ、別に」
普段の調子で言っている。
「……何かあったやろ」
オレが疑いの目で見ていると八郎は、
「小西殿、何かあったのか? あったのなら、私で出来る事は協力するが……」
心配そうな目で見つめ、聞いてきた。
「いえいえ、何もありまへん」
「ん?」
エリンギが足元にやって来て小声で、
「俺の言う通りに言え」
「わかった。——弥九郎さん‼」
「何や?」
「——弥九郎さん。如月に三十回、手を出したのですか?」
言う通りに言うと、弥九郎さんは青ざめた。
「えっ⁉」
「そこまで出しとらんわ! ボケ‼ 六回や!」
「こ、小西殿……」
一瞬、場の空気が止まった。
「…………しもた」
「小西殿」「弥九郎さん」
「な、何や」
「如月とそういう仲に⁉」「如月を殴ったのか⁉」
「はあ?」
「「あれ⁉」」
八郎とオレの意見が違うせいか、弥九郎さんは戸惑っている。
「八郎、そういう仲って、どういう仲?」
「猫丸、何故、殴ると考える?」
オレたちは、なぜそうなったのか、わからずに顔を見合わせていると、
「まあ、ええやろ。儂は——」
オレと八郎で逃げようとする小西殿の前に立ちふさがった。
「小西殿、詳しく教えるのだ‼」
「殴ったら謝らないと‼」
二人で問い詰めると、弥九郎さんは観念した。
「…………両方しました」
「「したのか‼」」
「殴るなんて! ヒドい事するな‼」
「あれは如月が迫ってくるから、やかましいからどついたんや!」
「何故、殴ったのに手を出すのだ?」
「そ、それは……あの阿呆が如月を口説いていたからや」
「虎之助さんが?」
「……せや、あの阿呆は無視して、儂には深い仲になろうと迫ってくる。……あの頃、儂は驕り高ぶっていた。ただ優越感に浸る為、儂はいつもの様に来た如月を…………これ以上は言わすな‼」
「殴ったの?」
「ちゃうわ‼ 寝ただけや‼」
「なんだ。寝ただけか」
「……ね、猫丸」
八郎はオレを見て驚いている。
「ん? どしたん?」
「……猫丸、小西殿は如月にお主の苦手な伽をしたのだ」
「なるほど、と——ええっ⁉ や、弥九郎さん‼ あんた! オレの国じゃ警察に捕まって罪人になりますよ‼」
「猫さんの国でやろ! 儂らの国では罪にはならんわ‼」
「それならば一回でよいのでは? 何故、六回も?」
「いや……それは…………言えん」
エリンギが小声で言った。
「——よかったのですか?」
「‼」
「……小西殿」
「……」
オレが、ある事と思いつき、外に出ようとすると、
「猫丸、何処に行くのだ?」
八郎が聞いてきた。
「虎之助さんの屋敷に行って、全部話す」
「ああ、あの阿呆には全部言うて自慢しました。あの悔しがりようは——」
「虎之助さんの屋敷には行かない」
「「えっ⁉」」
「代わりに王の兄ちゃんの屋敷に——」
「それはやめるんや‼ 猫さん‼ 右近さんに知られたら、儂の立場が‼」
弥九郎さんがオレの前に立ちふさがった。
「でも——」
またエリンギが小声で言った。
「——まさか、つい最近もしたなんて……」
「⁉」
「したんですか」
「小西殿……」
「…………」
弥九郎さんは何も言わずに、
「ん?」
「あ!」
金一枚を渡した。それを見てエリンギは、
「ふにゃん(寄こせ)!」
投げた金一枚をキャッチしてエリンギも貰った。
「ええか。猫さん、坊ちゃま、猫さんの猫、賄賂までやったんや! 儂がつい最近まで、如月に六回手を出した事を絶対に言うたらあかんで‼ 特に右近さんには‼」
弥九郎さんが帰ろうと玄関を開けると、目の前には王の兄ちゃんがいた。
「「「……」」」
王の兄ちゃんを見た弥九郎さんが戸を閉めると、王の兄ちゃんが開けて、玄関に入って来た。
「猫殿、見つけましたよ」
王の兄ちゃんは、布に包まれた本らしき物を、オレに渡してくれた。
「これがそう⁉」
「ふにゃああああん‼」
「申し訳ありません。遅くなって」
「いえ、構いませんよ‼ オレのため、ありがとう!」
「どういたしまして、さて——」
王の兄ちゃんは、ロングソードを逃げようとする弥九郎さんの首の近くで止めた。
「アウグスティヌス」
「あのー。何か悪い事を……」
「最近まで計六回、如月に手を出した事を私に内緒にするよう、猫殿等に賄賂を贈って黙らせようとした事ですか?」
「な、な、何で、それを……?」
「あれだけ大きな声で言って聞こえない方がおかしいですよ」
確かに弥九郎さんだけでなく、虎之助さんや上様どころか、八郎もみんな声デカいからな。
「…………」
「アウグスティヌス、今から私の屋敷に行きましょう。話がしたいのです」
「…………はい」
弥九郎さんは王の兄ちゃんに腕を引っ張られて連れて行かれた。
そして静かになると、八郎はオレが貰った物について聞き始めた。
「ああ、猫丸。それは?」
「まあ、大切な物。——悪い、今から出かけてくる」
「えっ⁉ 今から⁉ 外は暗いぞ‼」
「それでも、大切な用があるから、じゃあ」
「猫丸」
外に出ると同時に、頭の上で本をめくる音がした。
「エリンギ、オレの頭の上で本を読むなよ」
「いいだろ。読ませろ」
「仕方ねえな」