猫と白拍子
如月の件から翌日の宇喜多屋敷にて、
「どうしようか? 如月に会うか?」
「会ってみたらどうだ?」
「そうだな。会ってみる。屋敷は——」
「俺が知っている。教えるぞ」
エリンギの言った通りの道案内に従い、如月の屋敷に着いた。
「ここか~」
屋敷は小ぢんまりだが、庭にある物を見ると、高級な物を使っているのが分かる。
「さてと——」
玄関から行くと、ファンらしき人たちがプレゼントを持って玄関の前にいる。
「入れてー!」
「お願い!」
「頼む!」
「ダメダメ‼」
そのファンを大柄な女中が追い出している。
「これじゃ行けないよな」
「正面からは、な。裏口から行けって言っていた」
「そうか」
裏に行くと、高い塀だけで扉等は無い。
「何もないじゃん。ただの塀しかないぞ!」
「見ていろ」
エリンギが塀を押すと、
「あっ⁉」
塀の一部が開き、中に入れる様になった。
「隠し扉か。行くぞ!」
屋敷に侵入成功し、周りを見渡していると、
「どこだ?」
「あっちだ」
エリンギの言った通りの道に行き、部屋に入ると、赤い寝室があり、その中には歌声が聞こえる。歌は古そうだがオレの時代の歌謡曲のようだった。
「また歌っているのか?」
今まで見えなかったが、ベッドの上の人が起きた。
「そうよ。歌って悪い?」
起き上がった人物は如月だった。
「いや、連れて来たぞ」
如月を見て、エリンギは喋った。
「⁉ お前、喋っていいのか⁉」
「構わん」
喋っているエリンギを見ても、如月は気にせず、
「で、何の用?」
「あ、ああ、君はいつの時代の人間なのか?」
「さあ? いつでもいいじゃない」
如月は伸びをしながら、しらばっくれた。
「いつでもって、教えてくれないか?」
「じゃあ、あんたは何処から来たの?」
「そうだな。最初にオレから言わないと——」
オレは今までの事を説明した。すると如月は、
「要するに、そいつが過去に送ったって事ね」
どうでもいいように言った。
「ああ、君はどうしてこの時代に?」
「それも知りたい?」
「そ、そうだけど、言いにくいのなら言わなくていいよ」
「いいわよ。教えてあげる。——その代わり条件があるの」
如月の目には、年に似合わない色気が含まれていた。
「条件?」
「エロ本とかない?」
「はっ⁉」
「エ・ロ・ほ・ん・ないの?」
「えっ⁉ な——あっ⁉」
エロ本は孫七郎さんにあげたんだ!
「…………あげました」
「じゃあ、BL本は?」
「それもあげた‼」
「……ないの?」
「今は持ってないんだ」
「はあ……美少女ゲームとかないの? 他にもアダルトアニメとかAVとか?」
如月はため息をつき、呆れている。
「ないです‼」
「動画も?」
「はいっ!」
「何だよ! くっだらねえ! 持ってねえのかよ!」
「持ってません!」
「持ってたら俺が見ている」
エリンギが不愉快そうに答えた。
「ふーん。そうなの?」
「ああ、そうだ」
「おい、本当に喋っていいのか?」
構わんと言っても、気になるので聞くと、エリンギより先に如月が、
「いいじゃない。別に」
「そういう事だ。気にするな、バカ猫」
そう言われると、何も言えない。
如月がエリンギを指さすと、
「そういえば、あんた名前は?」
「俺か? まだ言ってなかったな。俺の名はエン——」「エリンギだ!」
オレがエリンギの名前を答えた。
「待て‼ 俺の名前はエンリケだ!」
「そう、いい名前ね。キクラゲ」
「こらぁ! 如月! 待て‼」
「それより、本当に何も持ってないの? 例えば、お金とか?」
「お金?」
「そ、ほんの百両くらい。ボクを抱く金だけど」
「百両……あっ!」
百両も全額寄付したんだ!
「百両……ありません」
「そう。本来なら消えろカスだけど、今回は特別にボクの欲しい物を持ってきてくれたら、言う事聞いてあげるわ」
「欲しい物って?」
「松永久秀のセックス・ハウツー本、それを持ってきてくれたら、言う事聞いてあげる」
「ハウツー本?」
「そうよ。それが無理ならエロ本か、百両、用意してくれたらいいの」
「えっええ!」
「どれかを用意してくれたら仲良くするわ。それだけ」
「……わかった」
拒否権は無い様だ。
「じゃあ、待っているわ~」
如月は投げキッスをした。
その後、脱出して屋敷から離れると、
「うーん。どうする?」
金にするか、本にするか考えていると、エリンギが笑って、話しかけた。
「ボンボンか誰かから金借りるか?」
「でも、借金はいけないだろ、それに借用書はどうする気だ」
「そんなの勝手に作ればいいだろ」
「よくない! でも、貯金すれば何とかなるよな」
「何年かける気だ。ならば、貯金しなくても俺に任せろ」
「任せろって? アテがあるのか?」
「バカ猫がボンボンから百両借りる。それを俺は遊ぶ金に使う、その後、俺がお前に一両返す。素晴らしいだろ!」
「後の九十九両はどこに消えたんだ! 一両では如月は言う事聞かないぞ!」
「俺が金を使いたいだけだ」
「お前な。取りあえず、孫七郎さんにエロ本——あんなに喜んでいた物を、こんな理由で返してくれって言うのは無理だ」
「エロ本は無理か? なら、ハウツー本は?」
「そうだな、聞いてみるか? 本とか好きそうだし」
オレはエロ本や百両より、ハウツー本を見つける事にした。




