猫と歌舞
大坂城に着くと、
「猫丸、私は上様に報告してくる」
「ああ」
八郎が居なくなると、
「遅かったじゃないか!」
「……」
「あれ⁉ さっきの?」
「ふー!」
オレとエリンギを抱きしめたおじさんだ。それを見てエリンギが怒っている。
「如月、着替えるんだ。さあ」
「あ、あの~。関係者ですか?」
「まあ、そうだな」
「……」
おじさんは、不機嫌な如月を連れ去っていった。
オレとエリンギは用意されていた一番いい席に座って待つと、
「猫様!」
「お豪ちゃん!」「ふにゃ!」
お豪ちゃんが隣の席に来た。お豪ちゃんが来た事でエリンギは上機嫌になり、お豪ちゃんの膝の上に座った。
「猫様! 楽しみでする!」
「お豪ちゃんは楽しみなんだ」
「猫様は楽しみではないのですか?」
「いや、楽しみだよ」
「そうですよね! 如月の歌舞が見られるなんて、楽しみですよね!」
「ああ」
「歌だけでなく、着物も変わっているのでする」
「着物も?」
「白拍子は烏帽子を被りますが、その烏帽子を被らずに、袴も打袴を捲り上げているのでする」
「そうか」
「間に合ったか。猫丸!」
「お兄様!」
八郎も来たようだ。
舞台に黒ずくめの人物が来て、布を被ったかと思うと、布を投げ捨て、出て来たのは如月だった。
如月は、エクステを付け、白に赤いポンポンの水干に、お豪ちゃんの言っていた、裾を捲り上げた赤い袴をはき、長すぎる刀を差し、高い靴を履いて歌っている。
「夜の帳に やって来た
今業平の 優男
私語より 密事
生娘なのに よがり泣く
喋喋喃喃 気をやって
喋喋喃喃 汗みずく
女殺しの 腎張りね
希くは 側に居て」
黒い扇子を持って舞う姿は正にアイドルそのものだ。その証拠に皆、如月の歌を聴いて熱狂している。
だけど、この如月の歌は……。
オレたちの時代のリズムだ‼
「猫丸、どうした?」
「いや! なんでもない!」
こうして、如月の歌舞は終わった。
「終わったでする。喋喋喃喃~」
「そうだな」
見終わった八郎とお豪ちゃんは楽しそうだ。
「……」
周りを見ると、
「喋喋喃喃~」
「夜の帳に~」
皆、喋喋喃喃だっけ、うまくはないがさっきの歌を歌っている。
「……」
「気になるのか?」
オレの肩に慣れたぬくもりと重さが乗ってきた。
「エリンギ?」
「確かに、あの歌はお前の時代の歌によく似ているからな。気になって当然だろう」
「まあ、な」
「どうする?」
「……取りあえず、聞いてみる」
オレは二人から離れると、
「猫様⁉」
「猫丸⁉ 何処に行くのだ⁉」
「悪い‼ ちょっと、用事が出来た!」
二人から離れ、探してみると、大坂城の隅っこに如月と太ったおじさんがいた。
「如月!」
「……」
「ああ、あの猫。如月は今から殿下様に会いに行くから、また今度に——」
「如月! 君はいつの——」
「さあさあ」
「うわっ!」
オレは兵に止められ、その間に如月と太ったおじさんは行ってしまった。
が、如月は少しオレたちを見てから行った。
「如月!」
「いるんだよね。お金ないのに、如月に会おうとする人がさあ」
「さあ、行った!」
「うわっ‼」
兵によって、オレは追い返された。
「ね、猫丸!」
「猫様!」
「八郎、お豪ちゃん」
いつの間にか二人が近くに来ていた。
「如月に会いたいのか? なら、金子は——」
「いや! いい! そういうのじゃ、ないから‼」
「そ、そうなのか?」
「ああ、そうだ!」
「猫様、お豪がととさまに——」
「もっとダメ‼」
「お豪、猫様のために……」
「いいかい、お豪ちゃん、八郎。これはオレ個人の事だ。だからいいんだ」
「猫様……わかりました。いつでも、お豪に言ってください。お豪も猫様の力になりたいのです」
「猫丸、私もだ。何時でも言ってくれ」
「わかった」
「では帰るぞ。猫丸」
「そうだな」
「お兄様、猫様、えり、また来てください!」
「わかった」
「ああ!」
「ふにゃ!」
こうして、宇喜多屋敷に戻った。