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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と北政所

 翌朝、

「お兄様、猫様、えり」

 そこには元気なお豪ちゃんが居た。

「お豪!」「お豪ちゃん!」「ふにゃ!」

「お豪は良くなりました」

「そうか。無理をしてはいけないぞ」

 元気になったお豪ちゃんの姿を見て、八郎の目は嬉しそうだ。

「はい」

「よかったぁ」

「ふにゃあ!」

「お兄様たち、目が赤いでする。休んでください」

「「えっ⁉」」

 見てみると八郎の目は赤い。お互い寝ないで見張りをしていたからな。

「おおおぉぉ‼ 五もじ、治ったか!」

「五もじ……」

 お豪ちゃんの部屋に上様と奥様が入って来ていた。

「父上! 母上! いつの間に⁉」

「これもそれも、二人と一匹の御蔭……どんな礼を……」

「そんな! 礼なんていりませんよ!」

「私達は当然の事をしただけで!」

「二人とも、朝食の準備は出来ておる。食べたら、ゆっくり休むがよい」

「ですが……」

「休みなさい。休まないと五もじが心配するわよ」

「お兄様……猫様……」

 不安そうな目で見つめるお豪ちゃん。だけど!

「んにゃんにゃ……」

「だー! エリンギ‼ お豪ちゃんの膝の上で寝るな!」

「ふぎゃああ!」

 エリンギをムリヤリ抱え上げた事で、機嫌が悪くなった。

「その猫ちゃんにも布団を用意するわ。それで、機嫌がよくなるかしら?」

「ふにゃあ!」

 女性が言うと言う事を聞く、単純だ。

「さて、朝餉を食べたら休むが良い! 後は余に任せるのじゃ!」

「わかりました」

 朝食を食べ、オレと八郎とエリンギは眠る事にしたが……。

「う~ん……」

 八郎とエリンギは寝ている。

 エリンギは座布団で丸まって可愛らしく、八郎は横向きで寝ている。

 が、八郎の寝顔をはっきりと見ると、見とれてしまうな。なんて言うか、こんな人間、実在するのかって思うと、見とれるな。

 だけど……。

「寝れん‼」

 眠れないので、少し散歩する事にした。

 散歩をする事で眠れるかと思ったが、逆効果だった。太陽の光を浴びて眠れなくなった。

「だー! 戻るか?」

 戻ろうとすると、お豪ちゃんの部屋の近くに来てしまった。

「どうしたの?」

「うおっ⁉」

 オレに声を掛けてきたのは、上様の奥様だ。

「あ、あの、その……眠れなくて……」

「そう、眠れないの」

「まあ、はい……。そう言えば、上様は?」

「ああ、五もじの側にいるわ」

「そうですか。やっぱり、娘は大切なんですね」

「そうよ。血は繋がっていないけど」

「えっ⁉」

「五もじも、私達で養女として育てているの。私達には養子や猶子は沢山いるけど、その中でも、五もじは一番可愛がっているわ」

「そ、そうですか」

 お豪ちゃんも養子だったんだな。——じゃあ……。

「あ、あの、二人に……その……実の……」

「血の繋がった子はいないわ。子供は皆、血の繋がりは無いわ」

「あ、その、ごめんなさい……」

「気にする事はないわよ。子猫」

「そ、そうですか」

 奥様は、お豪ちゃんの部屋をこっそり覗いた。部屋では眠っているお豪ちゃんと、それを見つめる上様がいる。

「ふふ。眠っているわね。昨日は、そなたたちが来るまで、ずっと苦しんでいたのに」

「ええ! そうですか⁉」

「声が大きいわよ。そなたたちが来てから、安らかに眠っているわ。これも、そなたたちの御蔭よ」

「あ、ありがとうございます! 後、話は変わりますけど、気になっていた事が」

「何?」

「おととい、雪合戦をした時に、虎之助さんが『相変わらずだな!』とか『ほら、来いよ! 昔みたいに』とか言っていましたけど、あの二人は知り合いですか?」

「ああ、あの二人だけじゃないわよ。市松や桂松……福島左衛門大夫や大谷刑部も私達が幼き頃から面倒を見ていたの」

「そうなんですか⁉ じゃあ、弥九郎さんや細川殿は……」

「あの二人は違うわ。他にも面倒を見てきた子もいるけど、特にあの子らは、よく皆で遊んでいたけどね」

「へえー」

「あの子らは……藤吉郎……そなたで言う上様にまだ家臣がいなかった時、様々な人を集めてきた中の子供たちにあの子たちもいたのよ。皆、私の作ったご飯を食べて、眠って……ああ、そうそう、隣人が武芸の稽古をつけてくれて……そんな中で育ったのよ」

「あの人たちが……」

「あの、雪合戦の話は……」

 奥様は目をつむって、

「昔、雪が沢山積もっていた時の事よ」

『えいっ‼ えいっ‼』

『やあ!』

 夜叉丸や市松や桂松たちが雪合戦で遊んでいると……。

『おい! 佐吉! 雪合戦しないのか⁉』

『ほほほ。楽しいぞえ』

『ふん』

『何だよ‼ 逃げるのか⁉』

『そんな事をしている暇はない。⁉』

 佐吉の顔に雪玉が当たり、

『よっしゃ! 当たった!』

『この……やったな!』

『来たぞー!』

『そらそら』

『許さんぞ‼』

「こんな風にしていたのよ」

「はへー。そんなことが」

「今は今で、あの頃はあの頃で楽しかったわね」

 奥様は笑って、上を見上げた。

「聞いていると、そうですね」

「あの子たちは、これからもずっと、喧嘩してもいい。仲良く手を取り合って、この国を治める事が出来たら、どれだけ幸せでしょうね」

「出来ますよ、きっと。出来ないのなら、オレが何とかしますよ。北政所様!」

「猫……そうね。そなたなら、きっと」

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