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備前宰相の猫  作者: 山田忍
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猫と風邪

 雪合戦は終わり、結果勝者は……。

「お豪の勝ちでする!」

 まあ、お豪ちゃんだけは、誰も攻撃しなかったし、皆、それどころじゃなかったからな……。

「まったく、どうして雪合戦でそうなる」

 上様は呆れているのに対し、オレを含め他の人達は正座で座り、

「「「「「「申し訳ない……」」」」」」

「雪玉を使えばよい物を、ほほほ」

 刑部さんだけ笑っている。

「紀之介……」

「昔はそこまで、ならなかったのに……八郎と子猫と五もじ以外は全員来なさい」

「き、北政所様……」

 こうして一日が過ぎた。翌日、

「猫丸ー‼ 大変だ‼」

 八郎が急いでオレの部屋にやって来た。

「どうしたんだ⁉ 八郎! そんなに慌てて⁉」

「お豪が……お豪が……」

「お豪ちゃんが、どうしたんだ⁉」

「風邪を引いたのだ‼」

「お豪ちゃんが風邪⁉ 大丈夫なのか⁉」

「とにかく、大坂城に行くぞ!」

「ああ!」「ふにゃ!」

 大坂城奥御殿のお豪ちゃんの部屋にて、

「お豪!」「お豪ちゃん‼」「ふにゃ!」

 布団の中で赤い顔のお豪ちゃんが横になっている。

「あ……お兄様……猫様……えり……来てくれたのですね……」

「お豪、体はどうだ?」

「げほげほ……熱も出て……咳が止まりません……」

「お豪ちゃん、昨日、オレのせいで……オレが雪合戦に誘ったから……」

「そんな訳はありません! 昨日は楽しかったのです‼ うっ、ごほごほ……」

「あっ、お豪ちゃん……」

「ふにゃあ!」

 エリンギに猫キックを喰らわされた。

「いてて……」

 オレとエリンギのやり取りを見たお豪ちゃんは不安そうな目で見つめて、

「えりも……猫様……責めないで……」

 弱弱しい声で言った。

「お豪は体が弱いのだ。よく風邪を引いているのだ」

「そうなのか⁉」

「去年の冬とかは、よく風邪を引かなかったものだ。これも猫丸やえりんぎが居たからかもしれないな」

「そんな! 偶然だよ!」

「ふにゃあ(そうだ)!」

「恐らく……そうだと……思いまする……猫様と……えりが居たから……でする……」

「そ、そうかな……」

 お豪ちゃんが苦しんでいるのに、何も出来ないなんてないよな。そうだ!

「八郎、ちょっと待ってろ。取りに行きたい物がある」

 急いでいて持ってくるのを忘れていた物を取りに行き、お豪ちゃんの部屋に戻って来た。

「お豪ちゃん。これ!」

「これは……」

「のど飴だよ。これを舐めると喉が楽になるよ」

 袋から出して、お豪ちゃんに渡した。

「……変わった味……でも……」

「でも?」

「猫様の心遣い……嬉しいでする……」

 赤い顔だが、お豪ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

「お豪ちゃん」

「お豪、私にも出来る事はないか?」

「お兄様……お豪の側にいて……」

「わかった。父上に頼もう」

「えっ? なんで?」

「猫丸。奥御殿では、父上以外の男子は禁制なのだ。寝泊りするには父上の許可が必要なのだ。その許可を貰いに行くのだ」

「そうか。八郎は——」

「許可を貰うのは、私だけではない。猫丸もだ」

「オレも⁉」

「そうだ。どうせなら、皆でお豪の側に居てあげよう」

「……わかった」

「ふにゃあああ(よっしゃああ)!」

 わかりやすいガッツポーズをした。

「……エリンギ、変な事するなよ」

 その言葉に対してエリンギは小声で、

「誰がするか。ここで点数を稼いで、後にお豪ちゃんをモノに——」

「変な事しなくても、考えてるじゃないか」

「ふん」

 その後、八郎は、

「猫丸、許可を貰ったぞ。泊まる準備も女房衆がするそうだ」

「そっか!」

 そして夜、

「すぅ……すぅ……」

「お豪ちゃん、寝ちゃったな」

「ああ。ところで猫丸は寝ないのか?」

「オレは寝ない。お豪ちゃんに何かあってもいいように」

「そうか……ならば、私も寝ない」

「寝ない分、静かにしようぜ」

「そうだな」

 夜が深くなると、

「ん?」

「足音?」

 暗闇でわからないが人の気配はある。

「ふにゃ」

「エリンギ、誰かいるのか?」

「ああ、いるが……」

 小声でエリンギは答えた。

「八郎、誰かいるぞ!」

「お豪を狙う者か⁉」

「捕まえるぞ! 八郎!」

「ふ、ふにゃあ(ま、待て)!」

「「とおっ!」」

 オレと八郎は二人同時に飛びかかった。

「ぎゃあ!」

 何も見えない中で、曲者を捕まえる事に成功した。

「捕まえたぞ!」

「こ、この声……」

「何をする! やめんか‼」

「上様⁉」「父上⁉」

 捕まえた曲者は上様だった。

「ふにゃあ(言ったのに)……」

「父上、何故?」

「余は五もじが心配で見に来ただけじゃ」

「そ、そうですか‼ それは……」

「よい、二人の無礼は許す」

「は、はい!」

「なんか、すいません」

 上様はお豪ちゃんの寝息を聞いた。

「五もじは寝ているな。二人とも礼を言うぞ。後、この件は五もじには内緒じゃ」

「わかりました」「わかった」

 そう言うと、上様は去って行った。

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