石田屋敷にて
回復祝いの宴会の後の夜、備前島にある石田屋敷にて、
「ほほほ。珍しいねえ、佐吉が飲みなおしたいとは」
石田三成と大谷吉継の二人は酒を飲んでいる。
「ふん。紀之介、聞かせてもらうぞ」
「何を?」
「お主が、その場所に居た事についてだ」
「あれは散歩よ」
「散歩な訳あるか。お主は後をつけていたのだろう」
「ほほほ。たまたまよ」
「ふん。あの時も——」
辻斬り征伐の翌日、大坂城表御殿にて、
『——と言う事で、猫丸と大谷殿によって辻斬りは捕まえたのでございます』
宇喜多秀家は藤原秀吉の前で辻斬りの騒動の顛末を報告した。
『そうか。だが、八郎はいいのか?』
『何をですか?』
『褒美じゃ。八郎と猫と桂松が捕まえたのじゃろう』
『そんな! 私は猫丸が言ったから探しただけで! 実質は猫丸と大谷殿がいたから捕まえる事が出来たのです!』
宇喜多秀家は否定したが、大谷吉継は何事も無いように笑っている。
『ほほほ。何を言う。僕は散歩をしてただけ、居たのは偶然よ』
『偶然でも、大谷殿が——』
『僕は手柄も褒美もいらぬ。宇喜多殿もいらぬなら、全て猫にあげるとよかろ』
『…………』
「なぞと、言いおって」
「これは本当の事、何を今更。そなたこそ、追いかけていたのでは?」
「何故、私が」
石田三成はそっぽを向いたが、大谷吉継は一人で酒を注ぎながら、
「そうかえ?」
チビチビと飲んでいる。
「あの時、お主は去ったが、本当は聞いていたのだろう」
「……」
「それで、お主は調べている馬鹿猫を見つけ、夜、心配で二人と一匹の後を追った。違うか」
「……二人と一匹、ほほほ。墓穴を掘ったよのう」
「何をだ?」
「そなたは、猫と一緒に捕まえに行った事を知っている。猫はいないかも知れないのに」
「うっ……」
「そなたは、大方、子猫より、あの猫が心配だったのよのう。そいでそなたも後をつけていた。……違うかえ?」
「…………」
「図星よのう。手が震えておる」
石田屋敷の夜が過ぎた。