猫と回復祝い
「ん……」
「猫丸!」「猫様!」「ふにゃ!」
気が付くと、八郎とお豪ちゃんとエリンギがオレを見つめている。
「あ、あれ……八郎……お豪ちゃん……エリンギ……ここは……?」
「ここは宇喜多屋敷だ」
「猫様‼ ご無事で!」
お豪ちゃんが抱き着いてきたら、エリンギが……。
「ふー‼ しゃー!」
エリンギの攻撃が始まった。
「わわっ! 落ち着け! エリンギ‼ ん?」
「こっちや!」
「いや、そっちだ!」
見ると、虎之助さんと弥九郎さんが大ゲンカをしている。
「な、なんすか?」
「猫殿」
「うおっ! 王の兄ちゃん‼ 来ていたのかよ!」
「来ていますよ。猫殿、あれを説明するには、まず、猫殿は三日間寝ていた事を教えなくてはいけません」
「み、三日ぁ~! そんなに寝ていたのかよ⁉」
「ええ、三日も目を覚まさないので、それで葬儀をどちらの様式にするか、との話になったのです」
「へっ⁉」
「日蓮宗にするか南蛮宗にするかと、それで揉めていたのです」
「ちょ、ちょっと待てよ‼ オレ、死んだこと前提⁉」
「せやから!」
「待て!」
二人が言い争っていると、左衛門さんが間に入った。
「おいおい。お主ら、猫は生きてるぞ」
「あ、生きてた」
「ほんまや」
左衛門さんが仲介した事で二人とも気づいた。
「いやいやいやいや! 勝手に人を殺さないでくださいよ!」
「ですが、猫様! 生きていて嬉しいでする」
「ああ。お豪は猫丸の為、毎日お参りをしたのだ」
「お兄様も、でしょう! お参りの後、休まずに猫様のお側に居た事ぐらいは、お豪は知っています!」
「えっ⁉ そうなの⁉」
「ま、まあ、そうだ」
八郎は照れながら答えた。
「なんか、皆に迷惑かけたな」
「そんな事はない。皆、猫丸が無事であるのを喜んでいるのだ」
「……ふん。目を覚ましたのか」
「ほほほ。気付いたかね」
「刑部さん……石田殿……」
二人はオレの前に来てから座った。
「これで、僕ではない事がわかったね」
「礼を言う。馬鹿猫」
「えっ⁉」
石田殿が礼を言うなんて! 取りあえず、口には出さないでおこう。
「すげえな! 猫、辻斬り退治‼」
「ああ、これも日々の鍛錬の賜物かぁ?」
左衛門さんも虎之助さんも上機嫌にオレの肩を抱いた。
「辻斬りの次は虎退治やな!」
弥九郎さんが虎之助さんを指さすと、虎之助さんは眉を吊り上げ、
「はっ? 猫、辻斬りはもう一人近くにいるぞ」
弥九郎さんを睨みつけた。
「何や? 儂が虎退治の手本見せたろか?」
「俺も本物の辻斬り成敗してやるよ」
「え、ええっ⁉」
二人とも刀を抜いて、一触即発の雰囲気になっている。
「ふにゃ! ふにゃ! (やれ! やれ!)」
「エリンギ……」
そんな時、侍女がやって来て、
「若様、殿下様と羽柴殿が参られました」
「通してくれ」
その言葉に二人は無言で納刀した。
「おおっ! 猫! 見事じゃ!」
「猫丸、目を覚まさないかと思ったよ」
二人が来た時には全員、座って二人を迎えた。
「上様、小一郎のおっちゃん」
上様と小一郎のおっちゃんも座った。
「猫! 後日、褒美をやろう」
「えっ⁉ でも、オレ……」
「八郎と桂松から聞いておる。一人で辻斬りを倒したのじゃろう」
「一人で⁉ そんな、これは全て——」
「猫丸の活躍だ」
「僕は何もしておらぬ」
八郎や刑部さんは何事も無いように言っている。
「これは二人が……」
「バカ猫、受け取れ。百両だぞ、百両!」
「でも‼」
「猫丸、大谷殿の為、お主が捕まえようとしたから、私は手を差し出しただけだ。実質は猫丸がした事だ」
「僕はただ、身の潔白が証明されただけ」
「……」
「猫丸、後日じゃ。わかったな」
「…………はい」
「おーい! 猫丸」
「遅いぞ。孫七郎!」
「叔父上、悪い」
「孫七郎殿、どうしました?」
「猫丸、見舞いだ」
「見舞いって……」
「「うおおっ‼」」「ふにゃああ!」
オレ達の前に大量の酒やつまみが置いている。
「見舞いの酒と肴だ。……買いすぎではなさそうだな」
「よしっ! 猫! 飲むぞ!」
「飲むって⁉ うええっ‼」
ムリヤリ酒を飲まされた。
「猫丸も飲んだし、飲もうか、お豪」
「はいでする!」
お豪ちゃんは杯の酒を一気に飲んだ。
「って! お豪ちゃん! 飲んじゃダメだよ‼」
「武家の者は男も女も関係なく、飲んでいます!」
「女も飲み比べ大会に出ているぞ、猫丸」
「でも……」
「そうですよ。皆、飲んでいます」
「王の兄ちゃん……」
王の兄ちゃんも自分で酒を注いで飲んでいる。
「今日は猫の回復祝いじゃ! 飲むぞ‼」
「「おおーっ‼」」「ふにゃああ!」
「それにしても、この猫もよく飲むねえ」
酒を飲んだエリンギは、また扇子を持ってダンスをした。
「可愛いでする!」
「か、かわいい……い、いや! 何でもない‼」
石田殿が怒っている一方で、
「ぷはあー。やはり、酒はうまい! 猫、飲め!」
虎之助さんに酒を勧められて、どんどん飲まされる。
「は、はあ……」
「猫さん、飲みすぎはあきまへんで、ああなるで」
またしても、弥九郎さんは虎之助さんを指さした。
「あぁん⁉ 今、俺を指さしただろ‼」
「せや、儂は事実を見せただけや」
「酔っていても、汝を倒す程度は出来るって所を見せてやる」
「望むところや。儂も倒せるところ見せたるで」
「二人と——」
「おおっ! よし、どっちが勝つか賭けるのじゃ!」
石田殿が止めようとしたが、酔った上様は興奮して二人のケンカを盛り上げた。
「えっ、ええっ⁉」
こうして、回復祝いは朝まで続いた。